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7月 千葉、激しく憤る
「あの馬鹿がっ」
千葉陽平は間抜けに走り去っていく同室者に対して、激しい憤りを覚えた。
五月の中間テスト。同室者のよしみで和樹の点数を見た千葉は、本気でこの男の将来を悲観した。
何が平均以上だ。どんな計算方法をしたら、これらの点数で平均以上だと言えるのか。
下手をしたら赤点スレスレである。
一教科ごとに平均点と赤点ラインが決められるということを、あの男は理解していないらしい。
「馬鹿すぎて言葉も出ない」
千葉は舌打ちをして、盛大に溜息をつく。
正直なところ、和樹が赤点だろうが追試だろうが千葉には関係ない。寮や部活動によっては追試者に対して厳しいペナルティーが科せられるが、帰宅部(厳密には寮なので帰宅もクソもない)の和樹には関係のない話だ。
じゃあどうして、こんなにもあの馬鹿で面倒くさがりの同室者のテストを気にしなければならないのか。
千葉は学年トップテンの頭脳で考える。
が、答えはいっこうに出てこない。
「……要はあの馬鹿が赤点を取らなければいいだけの話であって――」
そこまで考えたとき、ドンっと背中を強く叩かれる。
「ってぇな!」
苛立ちの募っていた千葉はガラの悪い口調で振り返り、そして後悔した。
「は、隼人さん……」
「ご挨拶だな、陽平」
振り返った先には、背後に大柄な男を従えた風紀委員長、小嶋隼人の姿があった。
「隼人さん、それに辰己さんも……何かありましたか?」
隼人の後ろには風紀委員会副委員長の江川辰己が控えている。このふたりがセットで揃うとロクなことがない。千葉は身をもって知っている。どちらかといえば、千葉はこのふたりに関わった被害者でもあった。
「えーっと、アレだよ、陽平」
辰己が頬を掻きながら話し出すが、どうやらその先が言えないらしい。
嫌な予感がする。
とっさに千葉は身構えたが、いつも以上に眉間の皺を深く刻んだ隼人がその先を繋いだ。
「――和樹はどこだ?」
和樹はああ見えて風紀委員会に属している。
だが、あの男が真面目に風紀を取り締まっているはずもなく、この上役ふたりの悩みの種になっているのだ。特に委員長である隼人の怒りは、同室者である千葉に真っ先に向けられる。
「あいつ、今回のテストが危ういと聞いたが?」
「そうですね……はい」
千葉は曖昧に濁したが、隼人はそれを許さない。
「和樹に伝えておけ。万が一追試を取った場合は過酷なペナルティーを用意しておくから、死ぬ気で挑め、と」
「……はい」
千葉はとうに去っていった同室者の背中に、深く同情した。
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