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7月 和樹、図書室へGO
自慢じゃないが俺は生まれてこのかた、テスト勉強というものを真面目にしたことがない。そもそもテストのために勉強をする意味がわからない。
まあ、こんな性格だから、今までヒドイ点数だったわけだけど。
それでもこれまでは何とかやってきた。
だが、今回はそれじゃダメっぽい。
なぜかって?
テスト範囲が鬼畜だからだよッ!
「マジでポン太の野郎、三周回って爆ぜればいい」
鬼畜なテスト範囲を指定した学年主任は、俺の大嫌いな英語の教科担任でもある。最悪だ。サボリ魔のレッテルを張られている俺に対して、ポン太なりの嫌がらせなのだろう。そうとしか考えられない。
「マジであいつ――」
己の語彙力のなさに辟易しつつ、俺は教材を片手に図書室へ向かう。
どうして図書室かって?
そりゃあ、お勉強イコール図書室だからだろう。
だが、これも自慢にならないが、俺は入学してから今日まで図書室というものを利用したことがない。まったくのアウェーなのである。
とりあえず一番ヤバい英語の教科書とテキストを持ってきたものの、さあ何から手をつければいいのやら状態である。
ポン太曰く、このテキストから半分以上問題出すからそれを覚えていれば赤点は免れる、そうだが、俺はあいにく凡人以下の記憶力しか持ち合わせていない。
たとえこの三十問あまりを丸暗記したとしても、ポン太のことだ、微妙に変えた問題を出すだろう。あのタヌキは狡猾な男なのだ。
図書室へ足を踏み入れた俺は、とりあえず入り口近くの開いている席に座り、いかにも勉強してます風に教材を広げた。
「えーっと何々。『次の文を英訳せよ』んだこれ、何で上から目線なんだよ。えー、『明日の九時には私は残業しているだろう』社畜かこいつ。可哀相だな。未来形? 未来進行形? 知るか、そんなもん。自分の未来は自分で決めるんだよ」
案の定進まない。そりゃそうだ。一問たりともわかんねえんだもん。
「あーあ。誰か英語のスペシャリスト的な人いないかなー。帰国子女的な、英語とか余裕、てかイングリッシュとか毎日喋ってますよー的な人いないかな。いないか。この学校だもん」
「呼んだか、瀬川?」
「呼んでねえよ、バ会長」
テーブルに広げたテキストに影が落ちる。誰だ、と思って顔を上げたら、そこにいたのはいけすかないこの学校の生徒会長が立っていた。
「仕事しろよ、暇人」
「お前、段々俺に対してあたり強くなっているだろう。俺のほうが先輩だぞ? 敬えよ」
「お断りします。勉強の邪魔なので、さっさと立ち去ってください」
この男は相手にするだけ無駄だ。今日の俺はお勉強モード全開なのである。
うっとおしい会長を視界からシャットダウンしようと目を伏せたそのとき、会長は俺に向かってイヤミなセリフを投げかけた。
「俺が直々に教えてやろうか? 帰国子女でハーフで毎年英語トップの、この俺が」
俺は不覚にもときめいてしまった。
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