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7月 和樹、会長と賭け

 が、そのときめきは妙なフィルターがかかっていたらしい。  その後に訪れたものは、抱腹絶倒ばりの爆笑の嵐だ。 「あはははははははっ、ない、それは、ない、ひゃっはははははは……」  俺は図書室のテーブルをバンバン叩く。周りの生徒がウザそうな目で見ようとお構いなしだ。 「笑いすぎだぞ、瀬川」 「だって、アンタが帰国子女って……いやいやいやいや似合わなすぎでしょ」  たしかに会長はハーフだって聞いた覚えはある。でも、どっちかっていうと俺はヤツのことをいわゆる、英語ができないハーフだと認識していたのだ。 「……そんなに信じられないのなら試してやろうか?」 「んじゃ、この課題何も見ないで全問やってみます? アレですよ。辞書とか見るのも禁止。帰国子女ってくらいなら高二の英語なんて楽勝でしょ」 「見返りは?」  俺が冗談交じりに言った言葉を、この男は本気にしたらしい。  そっちがそのつもりなら、俺だって乗ってやる。 「そうっすねー。じゃあ課題全クリしたら、俺を一日好きにしていいよ」  自分で言ってみてクサすぎるレベルの話。どこのエロゲだよ。ニヤニヤしながら会長の顔を見ると――案の定ヤツはムカつくほどに整ったアーモンドアイを煌めかせて言った。 「男に二言はないぞ」 「当たり前っすよ」 「じゃあ課題よこせ。十分でカタつけてやるよ」 「は? 十分で終わらせるとかムリゲーだろ」 「俺をなめるなよ。俺はな、他の教科も天才的にできるが、英語は神がかって強いんだ。いまのうちにやること済ませておけよ。これが終わったらお前を可愛がってやるからさ」 「え、ウソ。マジすか」  バ会長がここまで本気で来るとは思わなかった。  会長は俺から課題をふんだくると、すらすらとシャーペンを動かし、みるみるうちに解いていく。真っ白だった課題が、会長が手を動かすごとにどんどん黒く埋まっていく。  俺はタイムマシンに乗って、過去の自分を殴りたくなった。 「初めて会長のことソンケーしたかもしれない……」 「おい、瀬川。何か俺に言うことはないのか?」  会長の書いた答えは全部当たっていた。  マジでこの人、英語は神がかって強い。  だが、終わらせた課題をこれ見よがしにテーブルに並べ、どうだとふんぞり返る様は、やっぱり性根が腐っているんだろうと思った。 「えーと、センパイのことなめててスミマセンでした?」 「何で疑問形なんだよ。お前が俺を舐めきっていたのは初めて会ったときから知ってる。他には? あるだろう? 言えよ、聞いてやるから」 「チッ」 「てめえその舌打ちは撤回しろよ」 「んーと、あー、めっちゃ笑ってすみませんでした」 「まだあるだろ」 「ちゃっかり提出課題終わらせてくれてありがとうございます」 「はあっ? 聞いてねえぞ! これ全部提出用のやつかよふざけんな!」 「騙されるセンパイが悪いんですよ」  会長の神がかった英語力には圧倒されたが、最後に笑うのは、この俺である。

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