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7月 そして、今に至る

「俺の代わりに課題やってくれてありがとうございます。はあと」 「そうかそうか。お前、俺が誰だかわかってないようだな。ええと、瀬川の英語担当は……本田先生か。なるほどなるほど。へーえ、ほーう。これは報告しておかねばなあ」 「はあっ? そんなん職権乱用じゃん! 横暴だ! 鬼畜だ! ニンゲンのやることじゃない!」 「てめえの課題くらいてめえでやれよ。ガキじゃあるまいし」 「アンタやっぱムカつく男ですねえ」 「なんだその中途半端な敬語は。余計に腹立つ」 「会長様に一瞬でもソンケーなんかした俺がバカでした」 「本当にムカつくな。直属の後輩だったら土下座させるレベルだ――ああ、そういや俺との約束、忘れたとは言わせねえぞ」 「約束……?」 「男に二言はねえんだよな」 「…………あ」  思い出してしまった。  もし時間内に会長が課題を全クリしたら――俺を一日好きにさせると。  って、何とんでもねえ約束しちまったんだ、俺? 「ああー。俺、このあと風紀のお仕事がありまして」 「嘘つけ。俺は逆に隼人からお前の監視を任されてんだぞ」  隼人とは、俺がこの世で一番恐れている男(たぶん)、鬼より怖い風紀委員長、小嶋隼人さまのことである。 「いつの間に」 「隼人が言ってた。和樹、今期のテスト追試だったら覚悟しておけよ――だったかな。だからお前の赤点の心配がなくなるまで、俺がみっちり仕込んでやる」 「なんやかんやで、先輩たち仲良しじゃないですか」 「ただの腐れ縁だ」 「んなこと言ったって、俺ムリっすよ。英語で点取れるわけない」 「この俺が直々に教えてやるから安心しろよ」 「それならまだ千葉のほうがマシだわ」 「千葉? ああ、お前の同室のアレか」 「ああ見えて勉強できるんで、ヤツから教えてもらいますわー。じゃあ俺はこの辺で」 「おい、逃げようったってそうはいかねえぞ」  腰を浮かそうとした俺に、会長が待ったの声をかける。  だが俺たちが動き出すその前に、突然図書室の扉が開かれ、予想外の人物が現れた。 「あれー? 浅井センパイじゃないっすか。珍しいですね」 「……その言葉、そっくり君へ返そう。どうして君がここにいるんだ、瀬川くん」

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