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7月 不穏な手紙
風紀委員会のトップたちに半ば脅迫される形で別れた千葉は、冷や汗をかきながら寮へと戻る。和樹への伝言を託される形になってしまったのだが、あまり気は進まない。
どうして同室者というだけで、こんなにも面倒な思いをしなければならないんだろう。
いくら考えても出るのは溜め息ばかりである。
和樹とふたりで過ごす共同スペースに足を踏み入れると、偶然にも和樹の部屋の扉が空いていることに気づく。
「ったく、戸締りくらいちゃんとしろよ」
文句を言いながらも、自然と身体は和樹の部屋へと移動し、半開きになった扉に手をかける。そして気づく。
「何だあれ?」
和樹の部屋は意外と整理が行き届いている。だからこそ、扉のすぐ近くにあるそれが目立ったのだ。
それは封筒だった。無造作に置かれたそれは、もしかしたらゴミ箱に投げ入れようとして、うっかり外したまま放置した結果だろう。
アイツのことだ。面倒だと感じたことにはとことん無頓着になるらしい。
千葉は腕を伸ばし、床に放置されていた封筒を手に取る。ぐしゃぐしゃに皺が寄っていたが、一度は開けた痕跡が残っていた。
――何で捨てようとしたんだろう。
気になる。何が書いてあるのか気になる。
「いや、待てよ」
同室者といえ所詮は他人である。他人宛てに書かれたものなど、見てはならないだろう。
だが、アイツはプライバシー云々を気にするような男じゃない、と千葉は思った。
「――ちゃんと捨てないアイツが悪い」
自分にそう言い聞かせて、千葉は封筒を開け、中の手紙を読んだ。
「……は?」
すぐに後悔した。
たったこれだけの文面だというのに、一瞬で悪寒がみなぎる。こんなものを受け取っておいてアイツはよく平気だなと思う。
もしかしたら、虚勢を張っているだけかもしれないが。いや、それよりも本気にしてないのか――そのほうが和樹らしいとも思う。
いずれにしろ――。
「一応、報告するか……」
この手の嫌がらせはどこに報告すべきだろう。千葉の脳裏にはふたりの人物が浮かぶ。
ひとりはB寮の寮長である野村北斗。
もうひとりは風紀委員長の小嶋隼人。
「……この場合、隼人さんが適任か」
千葉は手紙を封筒に戻し、それをポケットにしまいこむ。それから寮を飛び出し、風紀委員会が常駐する307教室へと急ぐ。
ほんの数分前には会いたくないほど恐ろしい男だったのだが、自分が隼人に怒られるよりも、目が離せないほどそそっかしい同室者の身に、何かとんでもないことが起こること以上に怖いことはなかった。
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