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7月 浅井センパイの秘密

 俺は奇しくも生徒会のトップとナンバー2に挟まれる形になってしまう。対岸の会長は若干顔を蒼褪めながらも余裕の態度でニヤリと笑う。  一方中性的な容姿の副会長はそんな会長の態度にブチ切れたのか、持っていた書類をテーブルに叩きつけた。 「仕事? 終わっているわけないだろう。お前がこんなところで油売っていなかったら、僕の仕事はとっくに終わっていたんだよ。残りの任期ぐらい真面目に仕事したらどうだ?」 「優秀な男が右腕だから、トップの俺に仕事が回ってこないんだよ」 「ふざけるなよ、秀一。僕がどれだけ苦労したと思っているんだ――」  俺を挟んでのケンカは正直やめてほしい。  でも、もしかしたら浅井センパイのおかげで、バ会長から逃げられるかもしれない。 「んじゃ、センパイ方! 俺これから勉強しないといけないんで、帰りますね。それでは」 「おいっ、待てよ瀬川! 抜け駆けはズルいぞ!」 「風紀委員長から聞いているよ。君、今期ギリギリだそうだな。さっさと寮へ戻って勉強しなさい。この男は僕が引き受けるから」 「はあ? 千晴まで瀬川の味方かよ」 「お前はしばらく生徒会室に缶詰だ。僕だって試験勉強したいんだから、お前ひとりに遊ばせるつもりはない」 「だからってよ――」  会長はまだ言い足りないようだが、俺は何も聞こえないフリをしてテーブルから抜け出そうとする。 「では、浅井センパイ。あとはよろしく頼みます」 「早く行け――っくしッ」 「センパイ、風邪?」  浅井センパイの横を通ろうとしたら、何やら可愛らしいくしゃみが聞こえる。俺がセンパイを見ると、センパイは恥ずかしそうに鼻をティッシュで覆い、むずむずと鼻をかんだ。 「瀬川くん。君、もしかして猫に触った?」 「はい、触りましたよ。こっち来る前、裏庭通ったんで。今日も良きもっふもふでした」  俺の学校にはなぜか猫が二匹住み着いている。俺や生徒会会計の久世ちゃん。あとC寮の寮長深月センパイら猫好きたちにより、愛されているのだ。  俺がうきうきと本日のこてつさまの毛並みを報告しようとすると、浅井センパイは困ったような顔をした。それでわかった。 「センパイ、もしかして猫アレルギー?」 「っ!」  図星だ。 「なーんだそうか! だから五月にこてつ見つけたときに何となーく嫌なような困ったような顔したんですね。ホントは猫好きなのにアレルギーが出ちゃう的な?」 「――おい、瀬川。早く行けよ」  会長だ。 「せっかく俺が我慢してやってんだ。早く行きやがれ。さもないと、今すぐ襲うぞ」 「キモい冗談言ってる暇あるなら仕事したらどうですかー?」 「瀬川くん!」 「ああー大丈夫ですよ、浅井センパイ。これ以上図書室の人に迷惑かけるのゴメンですので。今度こそ行きますからー」  こうして、俺の図書室デビューは何か微妙な感じで終わった。

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