114 / 118

7月 手紙の内容

「この手紙の信ぴょう性は?」  307教室のパイプ椅子に腰を下ろした隼人は、正面に立つ男を見上げる。 「先月の件、あれもおかしいと言えばおかしいですよね。俺は悪質ないたずらか、それ以上だと思います」  和樹の同室者の千葉は整然とした口調で答えた。  あのトラブルメーカーが今月も何か引き起こしそうな嫌な予感がする。千葉の話を聞きながら、隼人はそう思った。 「でも文面が文面だぜ。女生徒相手ならまだしも和樹は男だろ。しかもここ男子校だし、やっぱいたずらじゃないのか。今どき昼ドラでもこんなにドロドロしてないだろ」  背後にそびえる副委員長の辰己はそう苦言を呈す。  千葉から受け取った手紙にはこう書かれていた。  和樹へ  俺はお前を愛しているのに、どうしてお前は俺の想いに気づかない。  俺を弄んでそんなに楽しいのか?  俺はそんなお前が許せない。  だからお前にわからせてやるよ。  お前は俺のものだ。  待っていろ。  充分なほどに悪質である。 「最近、アイツの周りで何かあったか?」 「いや、特に何も。期末がやばいってわめいているだけです」 「そうか、そっちの問題もあるか」  隼人は頭を抱える。辰己もううんと考えこんでいるようだ。  事実だけ見れば、これは立派なストーカー案件にもなりうるが、実際には被害者の立場の和樹が何も思っていない以上、表立って動くことはできない。気にしているようならば、誰かに相談してもいい内容だ。  ――もしかしたら、アイツはこの程度じゃ嫌がらせだという認識すら抱いてないのかもしれないが。きっと、それが正しい。 「どうする、隼人? 教員側にも回すか? それともお前の――」 「いや、もう少し様子見だ」  辰己の提案を切り、隼人は結論を出す。 「このまま放っておくんですか?」  千葉が睨みを効かせる。ここのところ、この男は和樹がらみになると、どういうわけか感情的になりやすい。 「俺は様子見だと言ったんだ。この学校の生徒はアイツだけじゃない。ひとりだけ特別扱いもできない。だから、陽平。お前に頼みがある」 「頼み――ですか?」 「和樹の周りで不審なことが起きたら、その都度俺か辰己に報告するように。この案件は俺たち三人……いや、哲也も含め四人だけで進めよう」 「アイツも?」  千葉の睨みがさらにするどくなる。哲也との間には何かしらの因縁があるらしい。 「放っておいても哲也は嗅ぎつけるだろ。隠しておいても無駄だ。いっそ最初から話しておいたほうがいい」  完全には納得していないようだが、千葉は首を縦に振り、部屋をあとにした。

ともだちにシェアしよう!