4 / 57
春 東 ①
東京、それはテレビの向こうの世界だった。
でも住んでみればあっという間に慣れた。東は元々適応力の高いほうだ。
「東、おはよう」
下駄箱でクラスメイトの澤に話しかけられた。
東は明るい笑顔で答える。
「はよ、今日早くない?」
「いつもより早く起きたから、東はいっつも早いよね」
澤は少し眠そうに答えた。
「いまだに電車の時間には余裕を持っちゃう癖が抜けないんだ。前住んでたとこ、一時間に一本レベルだったから。」
「マジか。東の前住んでたところ行ってみたいけどなー」
「いいとこだよ、案内するしいつか行こうぜ!」
そんな話をしながら教室へ向かう。
こっちの学校での生活は、すでに前の学校での生活と同じくらいに楽しい。
クラスメイトは遠いところから来た転校生を物珍しがって話しかけてきてくれたし、東もそれに対して、当たり障りなくかつ嫌味もなく対応しすっかり打ち解けた。
「東~おはよう!」
教室に着くと隣の席の鈴花が話しかけてきた。
鈴花はクラスで一番仲の良い女子生徒だ。明るく人懐っこい性格で東の前の町での話をよく聞きたがる。
東もその話をするのが楽しいので自然と会話をすることが多くなった。
「ね、今日さ、またカラオケ行かない?!」
「今日?まぁ大丈夫だけど。鈴花カラオケ好きだね」
「好きだよ~!ストレス発散になるし~」
鈴花がニコニコしながら答える。
「ストレスなんてあんのかよ鈴花」
澤が横から茶々をいれた。
「しっつれいだなー!女子には色々あんのー」
「はいはい」
澤は笑いながらあしらう。その様子を東も笑いながら見ている。
このクラスで仲の良いグループが出来た。
男子は東と澤、それにバスケ部の針崎の三人、女子は鈴花と親友の光希。
だいたい遊ぶときはこの五人で集まる。
前の学校でも女友達はいたが、いつも一緒にいるのは男子だけだった。
一太と遠見、何をやるにも三人で行動していた。
一太とは小学生からの付き合いで、遠見とは高校から。
小さな町で東と一太は変わらない仲だった。それでいいと思っていた。ずっと一緒にいられれば。
だけど突然それが叶わない事がわかった。父親が東京勤務になったと言う。東には残ると言う選択権はなかった。
あまりにも突然で東は自分の気持ちの整理が出来なかった。
嫌だ、一太と離れるのは。
まず思ったことはそれだった。
それから思ったことは、一太と遠見を二人きりにしたくないと言うことだった。
東は引っ越してしまう前に一代決心をした。
でも、それはあることで飲み込むこととなった。
ともだちにシェアしよう!