6 / 57
春 東 ③
あの日、東が一太に告白をしようとした日。
もう離れるのなら、この気持ちを言ってしまおうと決心した日。
一太だって少なからず自分の事を特別に想ってくれている、東はそう思っていた。
東は真面目で融通が聞かない。親に反するような行為も絶対にしない。
男同士なんてことは絶対に受けいれないだろう、そう思ってずっと東は気持ちを打ち明けないでいた。
でも一太の態度や行動は自分を特別だと思ってくれている。そう確信もあった。
ただ進展するのが怖いだけ。
でも今進展しなければどうなるのだ。離れて終わってしまう。
そう東は思っていた。今日の帰り好きだって、一太に言おう。
そう決心をしていたのが、突然ガラガラと崩れる事態になった。
昼休み、遠見に二人で話したいと言われたのだ。
一太に適当に嘘を言って二人で教室を出た。
「何々?遠見なんかあった?」
周りに人がいなくなった所で東は遠見の後ろ姿に声をかけた。
遠見はくるりと振り返った。
その表情はいつも穏やかで柔らかな遠見とは違って鋭いものだった。
「東、俺お前にだけは言っておこうと思って。。」
「何を?」
東は少しドキリとした。
「東の事、信じて言うね。あのさ、俺と梓、付き合ってるんだ」
「。。は?」
東は遠見が言った言葉の意味をすぐには理解できず固まった。
「えっ、ちょっと待って。何もう一回。。」
「誰にも言ってないけど、梓と俺付き合ってる。って言っても付き合い始めたの最近だけど」
東は胸をひとつきにされたような気持ちになった。
「えっ、何それ。えっ、お前らってそういう仲なの?」
「うん、秘密にしててごめん。ほら、梓マジメだし、周りの目気にするから絶対に誰にも言わないでおこうってなって」
「。。じゃぁ何で今俺に言ったわけ?」
「東には知っててほしいなと思って。離れちゃっても大事な友達だし俺達の一番の理解者だと思うんだ。東には俺達のこと応援してもらいたくて」
「応援。。」
「うん、あっ、でも俺が東に話したの梓には内緒ね。多分、梓は東には一番知られたくないって思ってるから。東の前では真面目な梓でいたいんだよ」
遠見は微笑んだ。
「なぁ、これ冗談じゃないの?最後のドッキリ的な。。」
東は苦笑いで聞いた。
「違うよ、本気な話。東にだからしてる。」
遠見はピシャリと言った。
「俺は東を信頼してるから。梓とはこれまで通り何も聞かなかったことにして接してあげてほしいんだけど。。」
「わかった。」
東は遠見の真剣な視線にそうポツリと答えるしかなかった。
遠見と一太が付き合ってる?なんで?いつの間に?
自分がこの学校を去ることで恐れていたことだったけど、まさか自分がいる間にそんなことが起こってたなんて。
ともだちにシェアしよう!