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春 遠見 ④

それから一太は遠見に今まで以上に心を許すようになった。 遠見は東と違ってなんでも器用に真面目にこなすので、頼りがいもありイライラするようなこともなかった。 「なんか、最近遠見と一太仲良いよな~」 東が少し不機嫌そうに言う。 「だって遠見は東と違って世話かからないし、東と違ってちゃんとしてるし」 一太がフフンと鼻をならしながら言う。 「なんだよそれー」 東は面白くなさそうな顔をしていた。 遠見はそんな二人のやり取りを見ながら、どうやったら一太がもっと自分を見てくれるか考えていた。   仲良くなっても一太の一番は東だ。 それは一太の表情や口調を見ていればわかる。 『特別』なのだと二人の目線が語っている。   東が他のクラスメイトに誘われ遊びに行く時、一太は少し寂しそうな顔をする。一太は自分が行っては場がしらけると思って、東に誘われてもクラスメイト達の遊びには参加しなかった。 遠見は時々は参加していたが、一太と二人になれる機会はここだけだと思い少しずつ参加しなくなっていた。 「遠見も行ってくれば良いのに」 「いいよ、お金ないし。それに大人数で騒ぐのは本当は好きじゃない。気を回す事も多いし、ちゃんと人の話も聞けないしね」 「・・そっか。遠見は本当人のこと見てるな。えらいな。俺はそもそも騒いで遊ぶっていうのが苦手・・」 「はは、だろうね」 遠見は笑って言った。 「なんだよ、それぇ」 一太は少しムッとした。 「梓は気を使いすぎて楽しめないんじゃないかなって。羽目を外して騒ぐって言うのも性に合ってなさそうだし。だからさ、時間ある時は図書室で勉強したり、あと休みの日とか釣りにでも行かない?のんびりできて楽しいよ」 「釣り、やってみたいと思ってた!」 「良かった、じゃぁ、今度土曜日でも行ってみる?」 遠見はニコリと笑った。 「うん、あ、じゃぁ東にも聞いてみる!」 一太が笑って言った。 「え?」  遠見は一瞬表情が固まった。 「遠見?」 「あ、ごめん、うん、じゃぁ聞いてみてよ!」 遠見は何でもないような顔で答えた。 一太はなんでも東、東、だ。 俺と二人でとは考えないのか。 東のことは嫌いじゃない。 でも、邪魔だな。   そうポツリと遠見は心で呟いた。 どう考えたって自分の方が一太とうまくやれる。 東は結局誰からも好かれて必要とされていたい奴だ。 中心にいるのが好きな奴だ。一太だけを選ぶなんてことはきっとしない。 それなのに、一太も東も一緒にいようとする。 あくまで、友達だからと言いたいのだろうがそんなのは誤魔化しだと遠見は気づいていた。 いざ、そうなったとき一太を選べないのなら一太を離してやれよと、遠見は思った。 遠見の中で一太への想いがどんどん大きくなっていく、そんな時だった。 東が東京へ引っ越すと言う。 遠見にとってこれはチャンスでありピンチだった。 東と一太の関係が変わる。 現状のままで良いと思っていた二人の関係が。 東は分かりやすいほどに今まで以上に一太と一緒にいるようになった。 恐らくこの関係を変えて良いものか考えてるに違いない。 一太の反応を見て一太の感情を探っている。 一太は東がいなくなるとわかってどこか寂しそうだ。 きっと東との関係が変わるのを恐れているのだろう。 遠見は先に手を打とうと考えた。 二人の関係は変わらない、俺と一太の関係を変えれば良い。 そうすれば一太は傷つかない。 「俺と梓は付き合ってる」 それは遠見得意の口からでまかせだった。 しかし東にはちゃんと効いたようだ。 東はその日から何でもないような顔で一太と接した。 あまりベタベタとせず、少し距離を置いて。 遠見の思い通りに、二人の関係を変えることなく一太から東を遠ざけた。 ごめんね東。 梓はお前には渡さない。俺といる方が幸せになれるから。 絶対証明して見せる。

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