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夏 東 ②
あの日、一太にキスをした日。
もういっそのこと奪えるなら奪ってしまおうと、そんなやけくそな気持ちで東は一太の部屋を訪れた。
これが最後なのだからと。
一太の手が東の頭に触れた瞬間、東の気持ちは溢れた。
一太を押し倒して無理やりキスをした。
遠見のことは考えなかった。
このまま、無理やりその先もやってしまおうかと思った。
しかし一太の言葉が頭によぎった。
『一番の友達』だと。
自分は一太の友達で居続けなければいけない。
少なくともそれならまだ一太と繋がっていられる。
そう思い東は思い止まったのだ。
結局気持ちは伝えられず今に至る。
一太の親友、でも、それもこの距離ではいつまで続くだろう。
一太は言っていた。
きっと俺は東京ですぐに彼女ができて一太達のことを忘れるだろうと。
実際そうできたらどれほどいいか。
「東、何してんの?お昼行こ?みんな先購買行っちゃってるよ」
隣の席の鈴花が話しかけてきた。
「あ、ごめん、ちょっとライン見てた」
「向こうの友達?」
「うん」
「女子?」
鈴花が少し不機嫌そうに聞く。
「えっ?違うよ、男男!」
「ふーん。なんか東、SNSで今でも向こうの女の子達と仲良さそうに会話してるからそうなのかなって」
「あぁ、まぁたまに連絡くるけど」
「東ってやっぱりモテるんだぁ」
「いや、モテないって。向こうでも彼女なんかいなかったって」
「どーだかー。まぁいいや、ほらお昼、先に屋上行っとこ!」
鈴花はそう言うとクルリと向きを変えお弁当を持って歩きだした。
東もその後を続く。
東は鈴花の後ろ姿を見た。
やっぱり自意識過剰ではない気がする。
彼女は自分に好意を持ってくれている。
東だって鈴花のことは可愛いと思っている。
明るく誰にでも親しげで裏表が無さそうだ。
すぐに感情が顔に出るところも可愛い。
しかしそれを恋心かと聞かれたらイエスとは言えない。
「ね、東、あのさ、夏休み結構暇?」
鈴花がこちらを見ずに聞いてきた。
「え、あー、うん。そんなに予定ないよ」
「本当?じゃぁさ、暇な日どっか遊びに行かない?あの、みんなでも行きたいし、で、出来たら二人でも・・」
「え・・」
ちょうど屋上の扉の前だった。
鈴花は東の方を恥ずかしそうに振り返った。
「私、東と付き合いたい・・今みたいに、みんなでも楽しいけど、東と二人で過ごしてみたい・・」
東は鈴花の顔を見つめた。
「だめ、かな??」
鈴花の目が少し潤んでいる。緊張で表情が強張っているようだ。
「いいよ」
東はポツリと答えた。
「え?」
「俺も鈴花と二人で遊んでみたいなって思ってた」
「本当??」
鈴花の潤んだ瞳から一粒涙がこぼれた。
緊張の糸が切れたように鈴花が座り込んだ。
「良かったー。ダメって言われたらどうしようかと思ったー。うぅ・・」
東は鈴花の背中を優しく撫でた。
「ありがとう。言ってくれて」
東は笑って答えた。
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