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夏 遠見 ②
夕飯を食べ終え、一太と遠見は東とお台場の駅前で別れてホテルへと戻った。
別れ際の東は何を考えていただろう、それを想像したら少しの優越感を遠見は感じた。
一太は部屋に入るなり自分の荷物を整理し始めた。
「梓、大丈夫?」
遠見が聞いた。
「何が?」
一太は荷物をゴソゴソとさせながら答えた。
「元気、ないなって。東に彼女が出来たの、さみしい?」
「な、何言ってんだよ?!別にそんなわけないだろ!!」
一太はカッと顔を赤らめて遠見の方を見ながら言った。
「無理しなくていいんだよ。梓が東のこと特別に思ってるのわかってたから」
「はっ!?なんだよそれ?特別も何もただの友達だろ?変な勘違いするなよ」
「本当に?俺の勘違い?去年一年間、二人のこと近くで見てて俺には普通の友達には見えなかったけど・・」
「な・・」
「別に隠さなくてもいいのに。俺はなんとも思ってないよ。梓も東も大事な友達だし。おかしいなんて、思ってもない」
「俺、俺は、別に・・」
一太は下を向き何かを堪えるようなそぶりを見せた。
しかしすぐに顔を上げ遠見を見て言った。
「風呂、入ってくる。今の話はもうなし。今日はもうその話題出さないで」
そう言うと下着と着替えを持ってお風呂場へ入っていった。
遠見は思った。
もう一押しかな、もう少しぐらつかせれば落ちてくるかもしれない。
夜、遠見は一太が寝静まったのをコッソリと確認した。
一太はスースーと寝息をたてながら、体を横にして動くことなく静かに眠っている。
遠見は一太の顔をじっと見た。
一太はなんの疑いもなくここまで一緒に来てくれた。
そして傷ついた。
それを必死に隠そうとしている姿がまた意地らしく可愛いと遠見は思った。
遠見は一太の後ろの首筋にキスをした。
一太が起きない程度に力を込めて。
一太からは見えないその位置には赤い痕が残った。
遠見は明日この痕に気付くかな・・
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