20 / 57
夏 遠見 ③
次の日、待ち合わせは新橋駅だった。
今朝、遠見は昨夜話した事はなかったかのように一太に接した。
一太の信頼を失うわけにはいかない。
ここは慎重にいくべきだ。
「東達そろそろかな?」
遠見はスマホの時計を見た。
「まさかこんなに電車の本数が多いなんて思わなかったな。路線もいっぱいあるし。待ち合わせここであってるか不安になってきた・・」
一太は少し緊張した様子でソワソワとしている。
その時向こうから手を上げて走ってくる東が見えた。
「お待たせ、おはよ!迷わなかったか?」
東は昨日より幾分お洒落な格好をしてるように見えた。
「さすがに電車一本乗るだけなら迷わないよ、ね、梓」
遠見はにこやかに答えながら隣の一太を見た。
「東の、友達は?」
一太は少しぎこちなさそうに聞いた。
「あぁーと、そろそろ来るはず・・」
そう言ってスマホの画面を確認し回りをキョロキョロと見回す。
「あ、いた!おーい!」
東は正面からやって来る四人組の男女に向かって手を振った。
「お、いたいたー!」
「お待たせしました~」
明るい笑顔で四人が近づいてきた。
全員が集まったところで東が話始めた。
「んじゃ、一応自己紹介、こっちが遠見映一でこっちが梓一太」
「遠見です、よろしくお願いします」
遠見はいつも通りにこやかに挨拶をする。
「梓です、今日はわざわざありがとうございます」
一太も礼儀正しそうにぴしりと立って挨拶した。
「うんで、こっちから澤勇次、針崎透、久慈光希、大高鈴花」
「よろしく~」
「タメだし固っ苦しいのなしでいきましょ~」
こちら側はそれぞれが自由に挨拶をした。
「てかおい!東、ほら!鈴花ちゃんと紹介しろよ!」
澤が東に肩を叩いてけしかけた。
鈴花は少し恥ずかしそうに東を見つめる。
「え、っと、で、付き合ってるのが、こちらの大高さんです」
東は照れくさそうに鈴花の横に並ぶ。
「ちょっと~大高さんてなに?!鈴花でいいじゃーん!」
もう一人の女子、光希が笑いながら言った。
「あの、よろしくお願いします!前に住んでたところの話よく東から聞いてて!二人のこともすでにすごい親近感あるっていうか」
鈴花は頬を赤らめながらもニコニコと気さくに話しかけてきた。
遠見は笑顔で聞いていたが一太はどこか遠慮がちな顔をしている。
もともと人見知りする方ではあるし女子と話すのも慣れていないので仕方がない。
遠見が話を繋げた。
「俺も大高さんのことわかるよ!よく東がSNSに上げる写真に写ってるよね?仲良さそうだなって思ってたけど本当に付き合ってたんだね。お似合いだよ!ねぇ、梓?」
「え、あ、うん・・」
一太は少し戸惑い、チラリと東の方を見て答えた。
東も一太からの視線に少し気まずそうにする。
「よし、とりあえず自己紹介終わったし、まずどこ行く?やっぱり渋谷?」
東はその場を終わらせ、次の行動へと移ることにした。
電車に乗るためゾロゾロと改札へと歩いた。
鈴花はごく自然な動きで東の隣へと並ぶ。
その姿を遠見と一太は後ろから見ていた。
「東には勿体ないくらい可愛い彼女だね」
遠見は一太に話しかけた。
「本当にな、あんなだらしない奴なのに」
一太は二人の後ろ姿をじっと見ながら言った。
「まぁでも、東はそういうだらしない面で母性本能くすぐって、いざって時に頼りになる男らしい面で女心掴むんだろうな」
一太は少し笑いながら言った。
「・・梓も?」
「え?」
「うぅん、何でもない。うわ、相変わらずすごい人だね」
遠見は東を語る一太の姿に嫉妬し、咄嗟に言葉が出てしまいそうになった。
それをごまかすように電車に乗り込む人混みに話を変えた。
ともだちにシェアしよう!