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夏 遠見 ⑤

スカイツリーは夏休みだったこともありかなり混んでいた。 しかし順番に並びなんとか入ることができた。 天望デッキでプラスで料金を払ってさらに上の階へ行くかの相談をした。 「うーん、俺と梓はせっかくだから行こうと思う」 遠見が言った。 「そうだよな、俺らはいつでも来ようと思えば来れるしここで待ってるかー」 東京組は残ることになった。 二手に別れ遠見と一太は最上階へと上がった。 それは二人とも初めてみる景色だった。 驚くのはこんなに高いところから見ても山がほとんど見えないことだ。 「すごいな、こんなにずっと平たくて家ばっかり・・」 一太は感心した。 「ね、これだけの人が東京には住んでるんだね」 遠見は横に並んで景色を見る。 「東は、すっかりこっちに馴染んでたな。ここから見える景色のどこかで毎日生活してるんだ、改めて遠くに行っちゃったんだなって、実感する」 一太は遠くを見つめながら言う。 遠見はそんな一太の顔を見ながら言った。 「寂しいね?」 そう言われた一太は、ほんの小さく頷いた。 その時だった。 「あ、いた!」 後ろから声をかけられた。 振り返ると東が鈴花と手を繋ぎながら歩いてきた。 「どうしたの?」 遠見が聞く。 「いや、せっかくだから俺達はデートってことで上がってきた!高いからなかなか来ないだろうし」 東が笑いながら言った。 遠見は思った。 きっと東は俺達が二人きりなのが気になったのだろう、ついでに自分達のことも見せつけようと、分かりやすい奴だ。 「大高さんは高いところ大丈夫なの?」 一太から鈴花へ話かけた。 一太なりにあまり鈴花と話をできてなかったことを気にしていたようだ。 「うん!むしろ大好き!梓君は?」 「俺は少し怖いかも、こんなに高いところ初めてだし」 一太は微笑んだ。 「ふふ、なんか梓君と話すの不思議ー!本当によく東から話聞いてたんだよ!ね、東!」 「まぁ、あんまりそういうこと言うなよ、恥ずかしいじゃん!」 東が照れながら鈴花の髪をクシャクシャする。 それは東がよく一太にしていたことだった。 「やだー!せっかくセットしてるんだからやめてよー!」 鈴花は笑いながら東を叩いた。 「それより!梓君って言うとなんか違和感!いっつも東が一太、一太って言うから!名字も今日初めて聞いたし!ね、一太君って呼んでいい?」 鈴花がニコニコと聞いてきた。 「えっと・・」 一太は戸惑った。 「だーめ」 すると東が止めにはいった。 「一太は自分の名前そんなに好きじゃないんだよね。だから名前で呼ばれるの嫌がんの」 「えー、でも東呼んでるじゃん」 「俺は特別ー!小さい頃から呼んでたし!」 「えー、そうなの?」 鈴花が一太に聞いた。 「あ、うん・・そう。なんか恥ずかしくって。昔話に出てきそうな名前だし。だから東以外はみんな名字で呼んでくれる」 「えー、じゃあ東も気遣って名字で呼んであげなよぉ」 鈴花が東をこずいた。 「だからー、俺は特別!!俺は一太の親友だからいいの!な、一太!」 そう笑顔で東は言うと、一太の隣に並んで肩を組んだ。 「まぁ、今さら名字で呼ばれる方が変な感じだから・・」 一太は組まれた肩をどうしたらよいか少し戸惑いながらも笑った。 その時ふと、東の視線が一太の首もとへといった。そして東の笑顔が少し固まったように見えた。 見つけたかな、あの『痕』を。 遠見は思った。 だったら早くその腕をどけろよ、近寄るな。 遠見は心でそう呟くと一太の腕を引っ張った。 「梓、あっち行ってみる?」 「あ、うん」 一太はそう言うと笑いながら東に言った。 「じゃぁちょっとだけ別行動、せっかくのデートだろ?」 そう言われた東は一太から手を離すと、 「あぁ、そうだな」 と少し小さい声で答え鈴花の手を引いて歩いていった。 本当にズルい奴だ。 この期に及んでまだ梓の特別でいようとする。 彼女がいても梓の一番でいようとする。 そういうところだよ、東。 俺がお前に梓を譲れないのは。 「ね、遠見」 「何?」 一太が景色を見ながら聞いてきた。 「俺、東の親友なのかな」 「え?」 「こんなに離れてて、確かに連絡はよくくるけど、他愛のないことだけだし、彼女が、出来たことも知らなかった」 「・・・」 「俺、東は特別な友達だって思ってたけど、思おうとしてたけど、よくわからなくなったよ」 「梓・・」 「あ、ごめん、なんか今ふと思ったこと愚痴っただけ。へへ」 一太はそう言うと歩き始めた。 「すごいなぁ。見てよ遠見!めっちゃキレイ!」 一太が誤魔化すように楽しげに笑いながら歩く。 しかし、ふと、何かに気がつき立ち止まった。 一太の視線の先には東と鈴花がいた。 二人は隣にピタリとくっつきながら密着した状態で景色を見ている。 そして鈴花がスマホを取り出すと、東の頬にキスした状態で自撮りをした。 その後は反対に東が鈴花の頬にキスをした写真も撮っている。 仲が良さそうだった。 一太は二人の姿をただじっと見ていた。 「東、楽しそうだ。東京来て良かったんだな」 そうポツリと一太は呟いた。 遠見はそんな一太の横顔を黙って見つめていた。

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