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夏 遠見 ⑥
それからまた合流し、夕飯をスカイツリーの下の商業施設で食べ解散することになった。
「今日は本当にありがとう、楽しかった」
遠見が言った。
「うん、俺も、テレビで見た所にいっぱい行けて楽しかった、ありがとう!」
一太も笑顔でお礼を言う。
「こっちこそ!また、遊びにこいよな!」
「ね!今度はディズニー行こうよー!」
東京組も笑顔で答えてくれた。
「じゃぁ、とりあえずここで解散でいいかな。二人帰り方わかる?」
針崎が聞いた。
「あ、俺また送ってくよ」
東が手をあげた。
しかしそれを一太が制した。
「いいよ、東は大高さんを送っててあげなよ。俺達なら大丈夫だから、な、遠見?」
「うん、だいぶこっちの電車にも慣れたから大丈夫、帰り方さっき調べておいたし!」
「え、でも、本当に大丈夫か?」
「悪いけど俺達東よりしっかりしてるからな!東が大丈夫なんだから大丈夫だよ」
一太は東の胸をポンと叩いた。
「じゃぁ、本当にありがとう、みんな元気でな!東は明日、空港で!」
そう言うと遠見と一太は歩き出した。
明日は飛行機の時間が早いのでほとんど観光は出来ない。
そのため、東が見送りに空港まで来てくれることになっていた。
実質今日が東京という街で過ごす最後の日だった。
ホテルに戻ると、一太は大の字でベッドに倒れた。
「ふー、疲れた・・」
「結構歩いたよね」
遠見はその横に座りながら靴を脱いだ。
「みんな、良い人たちだったな」
一太は手を目の上に置いて、目をつむりながら喋った。
「そうだね、東京の人達ってもっと怖いか偉そうかって思ったけど、別に変わらないね」
「東と仲良いのも納得だな・・」
一太は東の名前を出すと少し黙った。
「・・ねぇ、遠見」
「うん?」
「昨日の話・・」
「昨日の?」
「うん、俺、今日思ったんだ。俺は東を特別だと思ってた。そんで、あいつも俺のこと特別だと思ってると思ってた」
「・・うん」
「でも、特別の意味が違ったんだ。東にとって俺は特別に仲が良い友達だったんだよな。俺も、そうだって思ってたけど、思い込もうとしてたけど全然違ってた。友達だと思ってくれてるあいつのこと、裏切ってた」
「・・友情じゃなかったって、ことだよね?」
遠見は柔らかい口調で聞いた。
「・・俺、こんなこと、絶対言えない。死んでも言えない。きっと知ったらあいつ友達じゃいてくれなくなる。あぁやって、笑いかけてくれなくなる・・」
一太の声は震えていた。
「気づかないようにしてたのに。なのに、彼女と楽しそうにしてるあいつ見てたら、なんか辛くて。友達を取られたとかそう言うんじゃない。俺があの子になれたらって思ってて。あんな風に隣にいれたらいいなって」
「梓・・」
「ごめん、ごめんな遠見。気持ち悪い話聞かせて。せっかくの旅行、なのに」
一太の瞳から堪えていた涙が溢れてきた。
遠見は一太の顔を隠していた腕を掴むと、顔から引き剥がした。
「梓は気持ち悪くなんかないよ」
遠見は微笑んだ。
「う、嘘だ。気持ち悪いよ。男友達を好きとか」
一太は横を向いて目をつぶった。
その瞬間、遠見は一太の顔を正面に向かせてキスをした。
「っ、えっ・・」
一太は突然のことで何が起こっているのかわからなかった。
遠見はベッドに倒れている一太の上に馬乗りになった。
そして両腕をベッドに押さえつけたまま、さらに深いキスをしてきた。
「ん、っつ、ふ」
一太は息をするのがやっとだった。
そしてふっと遠見が唇を離すとニコリと笑った。
「全然気持ち悪くない。俺は梓が好きだから」
「え・・」
一太は思ってもいない言葉に驚いた。
「梓のこと、ずっと見てたよ。梓が東を好きなことも気付いてた」
「あ・・」
一太は顔を真っ赤にした。
「ねぇ、梓、俺じゃダメ?東ほどしゃないけど俺だって梓のこと、わかってるつもりだよ。俺だったら梓を寂しくなんかさせない、ずっと隣にいるよ。ね、梓、俺にしときなよ」
そう言うと、遠見は一太の服をたくし上げ露わになった体に触れ始めた。
「ちょ、まっ、待って待って、遠見!」
一太は驚いて遠見の体を押し剥がそうとした。
しかし遠見の方が体が大きく動かない。
「あっ・・ダメだって遠見・・こんな、俺、だって東が好きだって・・」
遠見は愛撫をやめ一太に語りかけた。
「知ってる。東を好きな梓を好きになったんだから。構わないよ、俺はどんな梓でもまるごと愛せる。でももう東は帰ってこないんだよ。他の人のものなんだ。いつかは東への気持ち、なくさなくちゃでしょ」
一太は遠見の顔を目を潤ませながらじっと見つめた。
「そうだけど。こんな流れじゃ俺、遠見に失礼だし最低じゃん・・」
「はは!襲われてる方が何言ってんの?」
遠見は笑った。
「いいんだよ。俺がしたいの。俺が少しずつ忘れさせてあげる、ね」
そう言うと遠見は再び一太の体にキスをし始めた。
さらに遠見の手は一太の下腹部をまさぐった。
「あっ、遠見・・待って・・」
「大丈夫、今日は気持ちいいことしかしないから。俺に任せて」
一太は遠見の言葉と快楽に心溶かされ、身を委ねることにした。
今日あった、色々なことを忘れるため。
東への思いをいつか忘れるため。
遠見の手は、とても温かく優しいものだった。
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