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秋 一太 ①
秋の季節
鼻をかすめる良い匂いがする。
金木犀だ。
朝や日暮れ後はすっかり肌寒くなった。
一太もカーディガンを着て登校している。
先月行われた文化祭では、天文部は自主製作のプラネタリウムの上映会を行った。
自分でプラネタリウムを作るのは一太の夢だった。
部員数が増えて、やっと人に見せられるものが出来上がったのだ。
今でも部活動ではそのプラネタリウムの改良作業を行っている。
火曜日と木曜日の科学室が天文部の活動場所だった。
「こんにちわー」
一年生達が連れ立って科学室へと入ってきた。
「こんちわ」
一太はプラネタリウムの製作作業の手を止めて顔を上げた。
「あれ?遠見先輩はいないんですか?」
一年生の根山という女子が聞いた。
「遠見は修学旅行の班長説明会出てる、多分もうすぐ終わるはずだけど」
「あっ、そっかー今月末ですよね!いいなぁ北海道~」
一年の蓮池が言った。
「でも結構寒いらしいよ。俺、寒いの苦手なんだよなぁ」
一太は少しため息混じりに答える。
その時ガラリと扉が開いた。
「あれ?もうみんな集まってる?」
遠見がニコリとしながら入ってきた。
「遠見先輩こんにちわ!」
根山が元気に挨拶して遠見に近づいていった。
「修学旅行の班長って大変なんですかー?」
「いや、そんなには。班代表して注意事項とか持ち物の注意点聞いただけって感じ」
遠見は手に持った紙を一太に渡してきた。
「へー、結構ハードスケジュールだな」
その紙には日程表が書かれていた。
「でも宿良さそうだよね。一日目は旅館で大部屋だけど、ここの2日目と3日目はホテルで二人部屋だって」
「へー・・」
一太は少しドキリとしたが平静を装った。
「えー大部屋の方が楽しくないですかー?」
根山が遠見の肩に手を置きながら聞く。
根山は明るく距離感の近い子だが、特に遠見にはスキンシップが多い。
「まぁ一日くらいだったら楽しいけど、やっぱり一緒に寝るのって気使うし俺はホテルのがいいかな。梓は?」
「うん、俺も。人多いとあんまり寝れないし」
「えーそういうもんですかねー」
根山はまだ遠見の肩に手を置いたままだ。
「遠見先輩!お土産楽しみにしてますね!」
「白い○人買ってくるよ」
「定番ー!!」
「美味しいじゃん!」
そう言うと遠見は席を立ち自然と根山の手を離した。
そして一太の隣に並んだ。
「今日、帰り家寄ってかない?親仕事で遅いんだ」
遠見はコソリと呟いた。
一太は少し顔を赤らめながら小さく頷いた。
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