26 / 57

秋 一太 ②

遠見の両親は共働きだ。 遠見が中学に上がったタイミングで母親は介護職へ仕事復帰をしたらしい。 遠見が高校生になってからは夜勤も入るようになり、父親も仕事帰りに飲んで帰ることが多くなった。 そのため夜一人になるタイミングが多々ある。 そんな時は一太は遠見の家へ寄っていく。 そうなったのは二学期に入ってからだった。 「・・っつ、う・・」 バタンと遠見が自分の部屋の扉を閉めると、遠見は一太を扉に押しあてながらキスをしてきた。 最初は戸惑ったが一太も遠見とのキスに慣れてきて、自分から応えられるようになった。 ベッドへ寝転がると遠見は少しずつ一太の服を脱がせながら愛撫する。 そんな一連の動作にも慣れた。 二人が初めて結ばれたのは八月の終わり。 あの東京の日からもうすぐ一ヶ月というタイミングだった。 今日と同じように遠見の両親の帰りが遅い日、一太は昼間から遠見の家へ遊びに行くことになった。 遠見の家へは何回か来たことがあったが、付き合うことになってからはこの日が初めてだった。 キスは何回かしていたし『部屋に行く』となったら何かしらあるかもしれない。 一太はそう思い、覚悟を持って遠見の家へ赴いた。 しかし遠見はいつも通り穏やかそうに笑っていて、最初はゲームをしたり他愛ない会話をして過ごした。 もしかしたら考えすぎだったのかもしれない、そう思った時だった。 遠見が唐突に一太をベッドへ押し倒しキスをして来た。 「え、遠見・・?」 「ごめん、梓、普通にしてようと努力したんだけど、やっぱりそろそろ限界」 そう言うと先ほどより深いキスをする。 一太は目をつむりどうしてよいかわからず固まってしまった。 「大丈夫、俺に任せて」 遠見が柔らかい声で一太の耳元で囁いた。 一太はゆっくり目を開け、目の前の遠見を見つめた。 遠見は頬を少し赤らめ微笑んでいる。 一太は遠見のやり方に任せることにした。 誰かの体温を直接肌で感じる感覚。 今まで誰にも見せたことのない自分を全てをさらけ出す行為。 いけない事をしていると思う反面で、そんな背徳的な気持ちを抑えられなくなるほどの高揚感。 全てが一太には初めての経験だった。 想像もしていなかった体勢で遠見に敏感な箇所を触られ、一太は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした。 「と・・遠見、ちょっと待って・・ダメ・・だって・・」 一太は涙目になりながら声を漏らす。 「梓、大丈夫だよ、ゆっくりやるから」 遠見は一太の瞳に溜まった涙を指ですくいながら微笑んだ。 一太はその笑顔に心の緊張を解かれたような気がした。 そして少しずつ、その温かく湿った遠見の身体を受け入れていった。 遠見はとても丁寧に、大事なものを扱うように触ってくれたので、不安はあまりなかった。 痛みだけはどうしようもなかったが、普段あまり見られない遠見の必死な表情を見ていたらなんだか幸せな気持ちになった。 行為が終わったあとも遠見は一太の体を拭いてくれた。 「梓、大丈夫?」 「うん、痛くてビックリしたけど平気。なんか、遠見の必死な顔見れて得した感じ」 一太は遠見を心配させないように笑顔で言った。 遠見はそんな一太をギュッと抱き締めた。 「やっと、梓と1つになれた」 一太は遠見がそこまで想っていてくれた事がなんだか恥ずかしく、思わず遠見の頭を撫でた。 「優しくしてくれてありがとう、遠見」 一太は笑顔で遠見の頭を撫でながら言った。 遠見はそんな一太の顔を見て、照れくさそうに微笑んだ。

ともだちにシェアしよう!