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秋 一太 ③

それからは、遠見の家に行く時は必ずと言っていいほど抱き合った。 十七歳という若さは欲にたいして貪欲だ。 一太も不器用ながらも体を重ね合わす行為の気持ちよさに溺れていった。 遠見はこんな自分をどう思っているのだろう。 遠見はおそらくこういう行為をするのは初めてではないだろう。 丁寧で優しく、とても慣れているように感じた。 一太は人と付き合うのも初めてで、どれくらいの距離感でいたらよいのかわからなくなってしまう。 普段は友人のようにしていれば良いのだろうか。 両親や周りの人間にバレるわけにはいかないから、近づきすぎないようにと変な意識もしてしまう。 遠見は本心をあまり見せないタイプなので、これで遠見を不快にしていないか時々気になってしまうのだ。 しかし、遠見に快感と優しさを与えられるたびに一太のそんな思いも薄れていく。 今日もまた、目が眩むような熱さと快楽に二人は吐息を重ねながら果てた。 「梓、なにか飲む?」 行為が終わってベッドに腰掛けながら服を着ていると遠見が聞いてきた。 「あ、大丈夫、まだお茶残ってる」 そう言うと一太は鞄のペットボトルを取り出してお茶を飲んだ。 その時、ふと一太は今日の部活動でのことを思い出した。 「根山って、遠見のこと好きなのかな・・」 「・・なんで?」 遠見が一太の隣に座って聞いた。 「あっ、いや、なんか遠見になついてる感じがしたから」 「どうだろうね、根山は誰にでも愛想はいいけどね」 「まぁ、確かに・・」 「・・妬いた?」 遠見は笑って言った。 「えっ、いや、別に・・」 一太は真っ赤になって答えた。 確かに距離感が気になった。 これは嫉妬だろうか。 その時一太のスマホが振動した。 画面には『東』の名前があった。 一太はドキリとした。 東からの連絡は今でも時々入る。 しかしあの夏休み以降、返事をあまり返さなくなった。 忙しいと言い訳をつけて、三回に一回程度だ。 もともと返事が必要な連絡ではないことが多かったのもそれを助長した。 「まだ東から連絡くるんだ」 遠見の口調は少し冷たかった。 「あ、まぁでも近況報告みたいなものが多くて、あんまり返事してないけど」 一太はスマホを握りながら下を向いて言った。 「・・もうさ、いっそ言っちゃう?付き合ってるって」 遠見のその言葉に一太はドキッとした。 「そ、それは。まだ。ちょっと待って・・」 「でもさ、いつまでも連絡きてたら梓も辛いでしょ?」 遠見は一太の手からスマホをとった。 「あ・・」 一太は自分の手から離れたスマホを目で追い、それから遠見を見た。 遠見は真剣な眼差しで一太を見つめている。 「ごめん、遠見。気使わせて・・俺、もうそんなに気にしてないから。今は遠見といる方が楽しいし、東のこと普段は全然忘れてるし・・ただ付き合ってるってこと言うのは、その、まだ勇気がでないっていうか。回り回って親とかに伝わったらって思うと怖くて・・」 一太は遠見の顔を見ることが出来ず下を向いて喋った。 遠見は一つため息をついて、そんな一太の顔をくいっと両手で上げた。 「わかってる。ごめん、俺が妬いただけ」」 そう言って遠見は笑った。 その笑顔を見て一太は思った。 もう東に返事を出すのは止めよう。 まったくしなければそのうち連絡は途絶えるはずだ。 遠見を困らせちゃダメだ。 遠見はこんな俺を受け入れてくれたんだ。 遠見がいてくれたおかげで、東京から帰ってきても思っていたほど寂しい気持ちにはならなかった。 その遠見に嫌な思いをさせてはいけない。 一太は東からきた連絡をその日から見ないことにした。 二週間たつ頃には東からの連絡はこなくなった。 これでいい、忘れるんだ。 俺には遠見がいるんだから。

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