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秋 東 ①
「クシュン!」
やばい、風邪引いたかな・・
東はくしゃみと同時に鼻をすすった。
一週間前までは暑い日もあったので、東は薄着で油断していた。
もうすぐ修学旅行だから体調を崩すわけにはいかない。
東はスマホの画面を見つめていた。
全く既読になる気配のない一太の画面だ。
どんな形でも繋がっているならいいと、そう思ったはずなのに。
夏休みに会って以来、明らかに距離を置かれ始めた。
「くそ!」
東は小さく舌打ちをした。
あの時、一太の首もとに見つけた赤い痕が忘れられない。
当たり前のように一太の肩に手を回していた遠見の顔も。
一太と遠見が東京へ遊びに来た最終日は、結局空港で当たり障りのない会話をして終わった。
二人の関係を追及はしなかった。
聞くのが恐かった。
だから普段通りに別れたはずなのに、なぜだが急によそよそしくなった。
遠見と付き合っていたって一太の一番の友人は自分だ。
友人なら連絡したって構わないじゃないか。
遠見に何か言われたのか?
東は心の奥底で遠見を疑い始めていた。
「東ー!何難しい顔してんの?」
鈴花が両肩をポンと叩いて話しかけてきた。
「またスマホ見てる。そんなに梓君から連絡こないのが心配なの?」
「別に。そうじゃないけど」
「忙しいんでしょ?あっちにだって都合はあるんだよ。こっちだってもうすぐ修学旅行だよ!東わかってる?!」
「何が?」
「もう!何がって、修学旅行っていったら高校生活最大のイベントじゃん!!」
「それはわかってるって!あー、そうそう、なんか前の学校と修学旅行の日程かぶってるぽいんだよね」
「え?!そうなの?すごいじゃん!」
「うん、だからそれも含めて一太に連絡してんのに、全然返事来ない・・」
東は拗ねたような口調で言った。
「もー、一太一太って・・」
鈴花は若干あきれたような感じでため息をつく。
「東の友達はこっちにもいるでしょー!!班行動と自由行動の予定決めようよ!」
東の頬を両手でギュッと挟むようにして鈴花は言った。
そうだ、わかってる。
こっちの修学旅行だって楽しみだ。
ただ、日程がかぶっているのを前の学校の女子が教えてくれて、東は一太に会えるのではと期待した。
しかし返事がこない以上、こちらからコンタクトを取るのは難しい。
ただ一方的に送ってるだけでは向こうの考えがわからず、恐くなって最近は連絡もしていない。
顔を見て直接話したい。
今までみたいに仲良くしたいだけなのに・・
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