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秋 遠見 ③

三日目、ホテルを出てすぐに、バスは動物園へと移動した。 「今から12時まで自由行動。集合時間には遅れないように」 先生からの指示の後、各々が見たいところへと散らばっていく。 「あの、遠見君・・」 遠見は後ろから女子に声をかけられた。 同じクラスの日野だ。 「ちょっとだけでいいんだけど、その、私達も一緒に回ってもいいかな・・」 日野は真っ赤になりながら聞いてきた。 日野の隣には日野と仲の良い女子が二人ついている。 「あ、えっと」 遠見がどう断ろうか考えていると他の女子が遠見に詰め寄った。 「遠見君!お願い!!ね!」 「そうだよー!!日野ちゃん動物園楽しみにしてたんだよね?!」 すると隣にいた一太が声をかけた。 「いいじゃん、みんなで回った方が楽しいし。な、遠見?」 一太は遠見の肩をポンと叩いた。 「ありがとー梓君ー!」 「じゃぁ、いこいこ!!」 そう言うと女子三人が元気よく歩き出した。 遠見は一太にこそりと話しかけた。 「どういうつもり?」 「どういうって・・あそこで断るのは変だし、可哀想だろ。別に二人きりでって言われた訳じゃないし」 「俺は梓と二人で回りたかったけど・・」 遠見がそう言うと一太は顔を赤くして目を見張った。 「ご、ごめん・・」 そうしてボソッと謝った。 「・・別にいいけど・・」 遠見はわざと少し冷たく言った。 「見てみてー!可愛いー!」 「ほら二人ともー!」 「何々?」 遠見はニコリと笑みを浮かべ、一太を残して女子達の方へ駆け寄った。 一太にはもっと自分だけを必要としてほしいのに。 特に今日は・・ 少しの気まずさを残しながら、五人で動物園の中を歩き回った。 今のところ東の姿は見かけていない。 動物園は混んでいて、同じような修学旅行生や小学校の遠足などで人が多く、わざわざ探さなければ会わないで済みそうなほどだった。 遠見は一太の顔をちらりと見た。 一生懸命動物を見ている。 このまま終わればいいのに・・遠見は心で思った。 その後、途中お土産が置いてある店に入った。 女子達は可愛い動物のぬいぐるみに夢中になっている。 一太は小さめの動物のキーホルダーを見ていた。 「欲しいの?それ」 遠見も隣で見ながら一太に聞いた。 「えっ、あー・・いや、なんかお土産に買おうかなって・・」 「ふーん、梓はどれがいいの?せっかくだしプレゼントするよ?」 「えっ!?それはダメだって。なんかヤダ」 「なんで?俺がしたいからするだけだよ」 遠見はキーホルダーを一つ一つ見ながら言った。 一太は少し黙ってから恥ずかしそうに言った。 「じゃぁ、このペアのやつ。これ、一つずつにバラせるんだって」 「え?」 一太が言ったのは二つのペンギンがくっついてるキーホルダーだった。 「これ、一つずつ俺と遠見で持とうよ」 一太は真っ赤になりながら言った。 遠見もつられて赤くなった。 一太からそんな提案があるとは思わず遠見は嬉しくなった。 「あ、気持ち悪い、かな・・」 遠見が返事をしなかったので一太は不安になったのか遠見をチラリと見ていった。 遠見はそのペンギンのキーホルダーを取ると笑顔で言った。 「まさか。すごく嬉しいよ。俺今すぐ買ってくる!」 「えっ、あ、ありがと・・」 一太は笑顔の遠見を見て安堵の表情を浮かべた。 「あっ、じゃあ俺外の自販機で飲み物買ってくる!遠見何か飲みたいものある?」 「うーん、じゃぁコーラ」 「OK!」 そう言うと一太はお店の外へと出ていった。 遠見はこの修学旅行で初めて気持ちが浮き立った。 旅行が始まってから、東のことを考えると正直気が気ではなかったのだ。 一太が自分のことを考えてくれている。 お揃いのものを持とうと言ってくれた。 周りの目を気にする、真面目な一太が。 そう思うと遠見は心から一太を愛しく感じた。 お土産屋さんのレジは混んでいて会計が済むのに十分ほどかかった。 一太はどこだろう? 早くキーホルダーの片割れを渡そう。 そう思い遠見はお店の外へ出た。 一太は自販機の前でジュースを二本持って立っていた。 「梓!」 遠見が声をかけると、一太は一瞬驚いたような表情をした。 「お待たせ、どうかした?」 「あ・・いや、別に・・ごめん、ありがと!レジ混んでたよな?」 一太は笑ってジュースを遠見に手渡しながら聞いた。 「大丈夫だよ、それより、はいこれ」 遠見はキーホルダーの片割れを一太へ渡した。 一太はそれを受けとると掌でギュッと包んだ。 「ありがと、遠見」 一太はニコリと笑った。 その笑顔を見て遠見はさらに愛しさを感じた。 先程の一太の驚いた表情がなんだったのか、その事はもう頭の隅にもなかった。

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