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秋 遠見 ⑥

「ただいま」 そう言ってカードキーで部屋を開けて中に入った。 しかしそこには誰もいなかった。 「梓?」 お風呂かな? しかし風呂場から水音はしない。 ユニットバスになっているそこを覗いてみたが、やはりいなかった。 遠見はスマホを取り出して画面を見てみた。 特になんの連絡も入っていない。 遠見は嫌な予感がした。 電話をかけてみたが繋がらない。 遠見は部屋を出て、ホテル内を探し回った。 途中何人か知り合いに会ったが、誰も一太を見ていないと言った。 まだ見てないところ・・・そうだ、さっきまでいた中庭・・ 遠見は来た道を戻り中庭へ出た。 中庭には何人かのカップルがいたが、広いので少し距離をおけば周りは気にならないようになっていた。 先程の告白の時も、中庭には他に人がいたが自分達のことしか気にならなかった。 しかし、それが盲点だった。 遠見が中庭を少し進むと、二人の人影があった。 やっぱり・・・ そこには一太と東が向かい合うように立っていた。 東は一太の腕を掴んで何か話している。 一太もそれに答えるように東の目をまっすぐ見て話していた。 しかし次の瞬間、東が一太を引っ張り抱き締めた。 一太は驚いた顔をしてはいるものの、振り払う素振りがない。 遠見はその光景にカッとなって二人の間に割って入った。 「遠見!?」 二人は突然のことに驚いた様子だった。 遠見は一太の体を東から話すと一太の肩をグッと掴んだ。 東はばつが悪そうな顔をして頭をかいている。 「何してんの?こんなところで」 遠見は一太の顔を冷ややかな目で見て聞いた。 「あ、遠見、ごめん!俺達別に・・その、普通に話してただけで」 一太が慌てるように答える。 「普通に?普通に話してて抱き合うことなんてある?ね、梓?」 「あ・・いや、ごめん・・その・・」 一太が何か言わなければと必死な顔をしている。 そこに東が割って入った。 「そんなに怒ることないだろ遠見。俺達はただ久々の再会を喜んでただけだって、な、一太?」 東はそう言うと一太にむかってニカッと笑った。 「最近全然連絡つかなかったし。昼間の動物園で会えてなかったらもう無理かなって諦めるところだったんだよ」 「昼間?動物園?」 なんだそれは? 遠見には全く記憶にないことだ。 「東、それは・・」 一太は東が言おうとしてることを止めようとした。 しかし東は続けた。 「昼間、売店前にいた一太を見つけられた時は嬉しかったよ。でも俺らの学校もう時間なくてさぁ。だから夜ホテルの中庭で絶対待ってろって言ったんだよな」 東は笑いながら言った。 一太は気まずそうに下を向いている。 「・・は?何それ・・」 遠見は心の中がドス黒いもので埋まっていくような気分だった。 遠見は一太の手を取ると東の方など見もせず引っ張った。 「えっ、ちょ、遠見!?」 一太は驚いたような声を出した。 「帰るよ、梓」 遠見はグイグイと一太を引っ張っていく。 「あっ、おい!遠見?!」 東の声がしたが無視した。 「ちょっと待てって!!」 東が走って追いかけてきたが、遠見はその東の手を払いのけた。 「悪いけどもうすぐ就寝時間だから。お前のとこだってそろそろだろ。早く帰れよ」 遠見は冷たくそう言うと一太の手をよりいっそう強く握り歩いた。 一太は不安そうに遠見の顔を見つめている。 東もそれ以上場を掻き回してはいけないと思ったのか、追いかけてはこなかった。

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