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冬 一太 ①

冬の季節 今月に入って急に町はクリスマスムードになった。 あまりオシャレとは言えない駅ビルや、家の近くの商店もクリスマスの飾り付けをしている。 一太はそんな町並みをボーッと眺めながら歩いた。 「クリスマス、どこか行く?」 すると隣を歩いている遠見が微笑みながら言った。 「うーん、そうだな、なんか美味しいもの食べに行こうか?」 一太も笑いながら言った。 それからそのまま遠見の家へ行き、来週から始まる期末テストの勉強をした。 一時間ほどしたところで休憩に入る。 それからどちらともなくキスをして、そのまま一回セックスをする。 最近はいつもその流れだ。 あの日。 遠見を怒らせてしまった日。 一太はとても後悔していた。 遠見に嫌な思いをさせた。 悲しい思いをさせた。 無理やりの行為でも一太は自分に非があるとわかっていたから怒りは沸いてこなかった。 遠見が一太を解放したのは日付けが変わった頃だった。 遠見は項垂れたようにベッドに無言で座り込んだ。 一太は縛られていた腕をさすりながら、ベッドに横になったまま話しかけた。 「遠見、ごめん・・」 「・・何が・・」 「俺、その・・東と会うつもりはなかったんだ。動物園では本当に偶然会って・・それで、その時あいつ急いでて、ホテルの中庭で夜待ってるってだけ言って行っちゃって。俺、それも行かないでいいかなって思ったんだけど」 「けど?でも行ったじゃない。結局は東に会いたかったんだろ」 遠見は下を向いたまま、こちらを見ることなく話している。 「違う・・俺、言おうって思ったんだ、遠見と付き合ってるって」 「・・え?」 遠見は一太の方を見た。 「それで、だからもう連絡もしないってちゃんと伝えようと思って。東も急に連絡断ったからなんでって思っただろうし・・ちゃんと説明してそしたら東もきっとわかってくれて、これからは連絡こないだろうなって」 「・・・それで、それは言えたの?」 「・・・うん・・」 一太は少し言葉を溜めて返事をした。 「あの、東が抱きついてきたのは・・最後のお別れみたいなものっていうか。あいつなりの冗談で本当に深い意味はないから、だから・・その、遠見に誤解されたくない」 「梓・・」 「今、俺が好きなのは遠見だよ。それは信じてほしい」 一太は遠見の瞳を見つめて言った。 遠見はフーと息を吐くと、脱力したようにゴロンと一太の横に並んで寝そべった。 「梓、ごめん、本当にごめん」 そう言って一太の腕をさすった。 「俺、二人が一緒にいるところ見ただけで頭に血が昇って、やっぱり二人の間には入れないのかって悔しくなった」 「そんなわけないだろ、もうとっくに俺の隣は遠見のものだよ」 一太はそう言うと遠見の頬に両手をおいた。 「でも、秘密にしててごめん。遠見に嫌な思いさせたくなくて、さっと行ってすぐ帰るつもりだったんだ・・」 「ううん、俺とのこと、東に言ってくれてありがとう」 そう言うと遠見は一太にキスをした。 一太はホッとした。 良かった、遠見の誤解がとけて。 あの日からまた、これまでのような穏やかな時間が流れた。 一緒に過ごし、体を重ね、笑いあう。 東から連絡はまったくこなくなった。 これでいい、こうやって東を忘れて遠見のことだけ考えるんだ。 一太はこの日常を心穏やかに過ごしている。 いや、正確には過ごそうとしている。 油断すると出てきてしまうからだ、小さな疑問が。 考えないようにしようとしても、頭のどこかにささってる棘のような疑問。 一太は遠見に言えていないことがあった。 それはあの時の、ホテルの中庭での東との会話だ。

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