40 / 57
冬 一太 ②
あの時。
一太は遠見と付き合っていることを東に伝えるため、中庭に向かった。
遠見が日野に呼び出されたのはちょうど良いタイミングだった。
その事がなければ一太は飲み物を買いに行くだとか適当な理由をつけて、少し抜け出すつもりでいた。
中庭に出ると、外の空気はひんやりとしていた。
やっぱり北海道は寒いなぁ・・
一太は腕をさすりながら歩いていく。
中庭にはカップルなのか男女のペアが何組かいる。
あまり見てはいけないかなと思い、一太は早足に歩いていった。
東に話すんだ、遠見とのこと。
うまく伝えられるだろうか・・
緊張からか、胸の鼓動が少し早い。
東は中庭の奥の方にいた。
暗くてあまり人がいないところだ。
「東・・」
一太が声をかけると、下を向いてスマホをいじっていた東が顔をあげた。
「おー、一太!よかった!来てくれた!」
東は笑顔で言った。
「遅くてごめん、レク大会だったんだ」
「あーお前ら明日が最終日だもんな、いいなぁ・・本当だったら俺も一太達と回るはずだったのになぁ・・」
東はつまらなそうな顔をする。
「何言ってんだよ、東京行ったおかげであんな可愛い彼女と修学旅行来れてるくせに」
一太は少しからかうように言った。
「あぁ、まぁ、な」
東は少し気まずそうに頭をかいた。
「あのさ東、ごめん。俺一つだけ話があってここに来た。時間ないから手短に言うな」
一太は東に真剣な眼差しで言った。
「何?」
東も一太の真剣な瞳を見つめる。
「東は気持ち悪いと思うかもしれないけど、、俺、今遠見と付き合ってるんだ」
「え・・?」
「だからもう東とは連絡しない。東と連絡とってると、遠見が気にしちゃうんだ。友達って言っても確かに俺達仲良すぎた気がするし」
「な、何言ってんだよ?別に、ただ連絡するくらいいじゃねーか?」
東は戸惑いながら聞いてきた。
遠見と、男と付き合ってることには疑問がないのか?
一太は少し不思議に思った。
「俺が、もうしたくない、遠見のことだけ考えていたいんだ。東からの返事を気にしたり、東が東京でどうしてるかとか、もう考えたくない。遠見が気にすることはしたくない」
「な、なんだよ、それ・・」
東は悲しそうな、そして悔しそうな顔をして一太を睨んだ。
そして突然一太の腕を掴んで言った。
「なんだよ!遠見、遠見って・・そんなに遠見が大事なのかよ?!俺達の仲はなんだったんだよ?!」
「・・ごめん、でも東も今は東京で大事な人や友達がたくさんいるんだし・・」
「それとこれとは、別だろ?!なんでだよ・・・なんで・・遠見なの?」
東は堪えるように声を震わせて聞いた。
「なんで・・俺じゃなかったんだよ・・」
東は絞り出すように言った。
「え・・?」
一太はそのか細い声に答えた。
「なんで・・なんで俺に秘密で付き合ったんだよ。俺達3人組だったろ・・なのに俺がいる間から、俺に秘密で付き合って・・本当は笑ってたんだろ、気付きもしないで、3人で仲良くしてるつもりの俺を!!」
「な、何言ってるんだよ?」
東の言葉の意味が分からず一太は狼狽えた。
東は何か勘違いをしているようだ・・
一太はそう思った。
しかしその後に続いた東の言葉はさらに一太を混乱させたるものだった。
「それをわざわざ、俺が東京に引っ越すってなったから言いに来て。もう、遠くに行くから関係ないって?応援しろって?ふざけんなよ!」
「な、なんだよ、それ?俺達が付き合ったのは東が東京に行ってから・・」
「別に嘘つかなくていいよ、知ってたんだから」
「知ってたって・・えっ、どういう・・」
「なんで、なんで、遠見だったんだよ。俺だって、俺の方が、ずっと、ずっと一太と一緒にいたのに・・」
そう言うと東はグイッと一太の腕を引っ張り抱き締めた。
「そんなに、遠見が好きなのか?」
東はポツリと一太の耳元で言った。
一太は久しぶりに感じる東の体温と匂いに戸惑った。
ずっと側にあった懐かしい匂い。
でも、もう今は違う人の側にあるもの。
「・・うん、遠見が、大切なんだ」
そう言った時だった。
体が東からグイッと強く引き離された。
一太の肩を掴んだのは遠見だった。
ともだちにシェアしよう!