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冬 一太 ④
期末テストは滞りなく終わった。
遠見も一太も成績は良い。
今回も二人でテスト勉強をしたおかげでかなり点数は良さそうだ。
「ねぇ、梓は進路もう決めてる?」
終業式の帰り道、遠見が聞いてきた。
今日は十二月二十五日、クリスマスでもある。
どこかで夕飯を食べて帰る予定だ。
あまりこの町にオシャレなレストランはないので、いつも通りのファミレスか焼き肉になるだろう。
男子高校生が二人で入っても変ではない店なんてここではそんなものだ。
「うーん、大学は行きたいけど、どこのとかはまだ考えてない。遠見は?」
「俺も学校自体はまだ考えてないかな」
遠見はそう言うと梓の手をコッソリと繋いだ。
「あそこの展望台、寄ってかない?」
「え、あぁ、いいけど・・」
一太が答えると、遠見は公園の少し高台になっているところまで一太を連れていった。
「さすがに寒いから人いないね」
遠見が少し鼻を赤くして笑いながら言った。
「ここの公園、夏も暑すぎてあんまりいないよ」
一太も笑って答える。
すると遠見が一太の方を向いて言った。
「あのさ、もし梓が遠くの大学を受けて家を出ることになったら、一緒に住まない?」
「え・・?」
「まだ先の話だけど。だいたいみんな大学ってなるとこの町出る奴多いだろ・・でも俺はなるべく梓と一緒にいたいな」
「・・まだどこ受けるか全然決まってないよ?遠見が行きたいとことは離れてるかもしれないよ?」
「俺だってまだ何も決まってないよ。でも、梓の近くにいたいっていうのは決まってる。梓が良ければだけど・・」
一太は遠見の顔を見てゴクリと唾を飲み込んだ。
「・・うん、俺も、遠見に会えなくなるのは嫌だな・・」
会えなくなる。
それだけで関係は変わる。
距離の遠さで簡単に人と人の絆にはヒビが入る。
一太はそのことを十分にわかっていた。
一太にとって遠見はすでにかけがえのない存在になっていた。
遠見と離れるということは一太も考えられなかった。
「良かった、これ伝えるの実はすごい緊張してた」
遠見は安心したようにニコリと笑った。
そして鞄から何かを出してきた。
それは小さな紙袋だった。
「これ、クリスマスプレゼント、二人きりの時に渡したかったから、今でも良い?」
「えっ!あ、ありがと。ちょっと待って、俺も」
一太は慌てて鞄の中からビニールの袋に入ったものを出した。
「はい、これ。あの、たいしたものじゃないけど・・」
「そんなことないよ、ありがとう。開けて良い?」
「えっ、あ、うん、俺もこれ開けていい?」
「うん」
そうしてお互いに貰ったプレゼントを開封した。
一太が遠見にあげたものはペンケースだった。
「これ、俺が雑誌で良いなぁっていってたやつだ、梓覚えてたんだ」
「うん、遠見ペンケース変えたいってずっと言ってたから。でも買いに行くの面倒くさがってたし、丁度いいかなって」
「ありがとう、明日から使うよ」
遠見は嬉しそうに笑った。
一太は遠見の反応を見てホッとした、それから貰ったプレゼントを開けた。
紙袋の中には小さな箱が入っている。
それを開けると中から小さなシルバーのリングのネックレスが出てきた。
「うわ!何これ?!めっちゃオシャレ!!俺こんな高そうなの持ってないよ!!すごい!」
一太は素直に驚いて喜んだ。
「良かった、それならそんなに派手じゃないし梓の服にも似合うと思うよ」
「確かに!合わせやすそう!ありがとう!」
「・・実はね、これ、俺も持ってるんだ」
「え?」
「お揃い。変わったデザインじゃないから着けててもお揃いとは思われないと思うけど・・気持ち悪いかな」
少し恥ずかしそうに遠見は前を向いて言った。
「全然。そんなことない!オシャレだし、遠見が持ってるものなら間違いないじゃん!嬉しいよ!」
一太はニコニコと答えた。
「良かった・・」
遠見も安心したように笑った。
それから二人で少し話をしてご飯を食べに行った。
今日はお互い家に家族がいるので呼ぶことは出来ない。
帰り道、遠見が言った。
「梓は冬休み、どこか行かないの?」
「うちは別に。何にも予定ない、遠見は?」
「俺の家は、30日から広島のおばあちゃん家に行くことになった」
「広島?へーおばあちゃん広島にいるんだ!!」
「うん、おばあちゃんもけっこう年だし、来年は俺受験で帰省できないだろうから、お正月は顔見せに行こうってことになって」
「そっか、いいな!俺ん家はもう両方とも死んじゃったから帰省とかないんだよなぁ。小学生の頃はまだ生きてたからよく遊びに行ったけど!」
「どこ?」
「近いよ、母さんの方の田舎は隣町だし。父さんの方のばあちゃん達は死んじゃうまで一緒に住んでた!」
「そっか、みんな県内なんだね」
「うん、俺ほとんどここから出たことないんだよなぁ。だから大学も家出るって考えたら不安だったけど、遠見も一緒なら大丈夫かも」
「来年の受験、ガンバろうね」
「うん、広島から帰ってきたら初詣行こう!今年は丹念にお願いしなきゃなぁ」
「はは、そうだね」
そんな話をしながら、二人はそれぞれの家に帰った。
一太は自分の部屋に入ると貰ったネックレスをまじまじと見た。
遠見がつけたらとても似合いそうなものだ。
それを選んでくれたのか。
一太は自分が本当に遠見に大切にされてることを実感した。
今度から外に出るときは必ず着けていこう。
そう思い一太は取り出しやすいように机のランプに引っ掻けた。
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