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冬 一太 ⑤

冬休みに入って五日が経った。 遠見とは昨日遊んだのが最後だ。 今日は十二月三十日だから遠見はいまごろ家族と広島へ向かってるのかな。 一太はベッドの布団の中でゴロゴロとしていた。 時計を見ると午前九時を過ぎている。 一太は学校がある日は早起きだが、休みの日はなるべく寝ていたいタイプだ。 親が怒って起こしにくるか、お腹が空いてなにか食べたくなるまではベッドでダラダラとしている。 一太は目を瞑ってもう一度夢の中へと落ちていった。 どれくらい寝ただろう、下の方で何か声がする。 母親の声だ。 普段より高めの嬉しそうな声。 お客さんでもきたのかな? 今日誰か来るなんて言ってなかったから、突然の訪問みたいだ。 父親も挨拶をしている。 男性の声もした。 一太は目を瞑りながら下から微かに聞こえる声に耳をすましていた。 俺も起きた方がいいのかな。 そんなことを思っているとトントンと階段を昇ってくる音がした。 母親が起こしに来たのか。 なら起こされるまで目を瞑っていよう。 今日は休みなのだから・・ ドアがガチャリと開き人が近づいてくる気配がした。 「あいっかわらず寝坊助だなぁ。もう昼だぞ」 その声に一太はパッと目を開いて飛び起きた。 そこには東が立っていた。 「えっ、なんで、東・・?」 「よぉ、久しぶり」 東はそう言うと手をサッと上にあげた。 しかし表情はどこか遠慮がちだった。 「あー、なんかごめんな、お前の母ちゃんに一太驚かして起こしてこいって言われちゃって・・」 「えっ、いや、と言うかなんでここにいるの??」 一太は混乱した。 「俺んち、昨日から隣の市のじいちゃん家に帰省してて。久しぶりにこっち来たし、お袋や親父がここの町を見に行きたいって言ってさ。そんで一緒に来た。そしたらちょうどお前の家の前通って、お袋が挨拶しようって急に訪ねてきちゃったわけ。だから、なんかごめんな」 「あっ、そうなんだ、そっか、、そう言えば隣の市におじいちゃんいるって東言ってたもんな・・」 「うん・・」 一太も東も気まずそうに下を向いた。 どうしよう・・ あんなことを言った手前、どういう風に東と話せば良いのだろう・・ 「あー、えっと、今日遠見は?来るなら俺いたらマズイよな、お袋達もすぐ帰ると思うんだけど・・なんか下、盛り上がってるな・・」 下からは両親の笑い声が聞こえてくる。 お互い小さい頃からの仲なので両親同士も仲が良かった。 一太もよく東の家でご飯をご馳走になったり、海に連れていってもらったりした。 「遠見は今日から家族で広島行ってる、田舎なんだって。それに、遠見は家に来たことないから・・」 「えっ、そうなのか?」 「うん、いつも遠見の家で遊んじゃうから、遠見の家の方が学校から近いんだ」 もちろん、その理由も本当だが、ほかにも理由はあった。 なんとなく遠見を両親に会わすのが気まずかった。 両親の前でただの友達のふりがうまくできるのか、自信もなかった。 「あー、そっか、なら良かった。ごめんな、一太の家にまさか寄ろうなんて言うと思ってなくて・・会うつもりなかったんだけど・・」 東は頭をかきながら申し訳なさそうに言う。 「そう、だよな、いや、俺の方こそごめん・・」 一太はわかっていても、会うつもりはなかったと言う東の言葉に少し傷ついた。 しかしそう小さく言って俯く一太に向かって東は言った。 「でも、一太に会いたいなってずっと思ってた。会えないけど、偶然でも会えたりしたらいいなって期待してついてきた」 「え・・」 「最後、一太とちゃんと話せなかったから。あれが最後だなんて嫌だった。遠見に引っ張られて連れてかれる一太の姿が・・」 「・・・」 「一太の気持ちはわかってるから、お前らの邪魔しようとか思ってないし。ただもう少しゆっくり一太と話したかったんだ」 「東・・」 東はベッドに腰かけた。 そして一太の方をじっと見た。 「・・一太が遠見のこと好きだなんて全然気付かなかったな。俺ずっと隣にいたのに、なに見てたんだろうな」 東が少し悲しげな表情で言った。 「あっ、それは・・」 一太はあわてて何かを取り繕う言葉を言おうとした。 しかし東はそのまま続けた。 「いいんだけど。俺やっぱり自己チューなんだろうな。まさに自分中心。一太は俺のことを特別なんだと思ってた。そう思い込んでたから、一太が遠見を好きだなんて微塵も思わなかったんだ」 東のモノ悲しそうな顔を見て、一太は聞きたいことを聞く決心をした。 「・・ねぇ、東は一体どこまで知ってるの?」 「どこまで?」 「俺達が、そのいつから付き合ってるか、とか、なんで付き合ったのかとか・・」 だって、俺達が付き合ったのは俺が東に失恋したからだ。 あの夏の日、東京へ行ったからだ。 それを東が知ってるなら、東は俺の気持ちを知ってたことになる・・ 「いつからって、一年の終わり頃からなんだろ」 東がケロッとした顔で言った。 「え?」 「遠見が、三学期の終わりに俺に言いに来た。一太と付き合ってるって」 「え・・何それ?」 何だそれは・・・どういうことだ。 「あー、遠くに行ってもお前らのこと応援してほしいって言われて。遠見なりに不安だったのかな。男同士だもんな、周りには普通言えないしな・・」 「応援・・でも、そんな、俺知らない・・」 「その時は、一太には俺が知ってること秘密にしててほしいって言われたから。お前、俺が知ってるってわかったら絶対動揺するだろ、遠見もそれをきにしたんじゃないか」 なんだ、その話は。 全く知らない。 俺と遠見が一年の時から付き合っていた? それを遠見が東に言った。 どういうことだ。 なんで、遠見はそんなこと・・ 「一太?そんな驚くなよ。遠見はお前のこと考えて黙ってたんだろ」 「そこに・・そこに驚いてるんじゃないよ」 「え?」 一太は握りしめた拳が少し震えているのを感じた。 考えたくないことだった。 信じたままでいたかった。 でも・・ 「東・・」 一太は東の瞳をじっと見つめていった。 「俺と遠見が付き合ったのは今年の夏からだよ。正確には、お前のところへ遊びに行った時から」 「えっ?」 「お前の、東の記憶違いであってほしいんだけど。その話が本当なら、遠見は、お前に嘘ついたことになる・・」

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