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冬 東 ①

年が明けて二日過ぎた。 まだこの町は静かだ。 商店街のお店は正月休みで、開いてるのはコンビニくらいである。 こんな静かな所に住んでいたのだなと、東は改めて思った。 東は駅の改札から出てすぐのベンチに腰かけていた。 お昼は久しぶりにこっちの友達と会ってご飯を食べた。 急に声をかけたのに多くの友人が集まってくれた。 久々の方便や、地元の話。 それから将来の話など、とても楽しい時間だった。 友人達とはまた会う約束をして夕方に駅前で別れた。 しかし東はまだ祖父の家には戻っていない。 祖父の家はここから電車で四十分ほどの場所だ。 まだ時間に余裕がある。 改札の方が少し賑やかになった。 電車が到着したようだ。 この駅は終着駅で住宅街でもあるので多くの人が降りてくる。 東はその人波に目を凝らした。 すると、向こうから手を上げて近付いてくる遠見の姿が見えた。 遠見の隣には遠見の両親らしき人物がいる。 東に気が付くと二人ともペコリと頭を下げた。 東も会釈をする。 そしてその場で遠見は両親と別れ、東の方に近づいてきた。 「お待たせ、東」 遠見は少し疲れたような表情だったが微笑んでいた。 「急で悪かったな。親父さん達大丈夫か?」 東は遠見の両親の後ろ姿を見ながら聞いた。 「うん、荷物も重いし先帰ってるって。久しぶりに会ったならゆっくり話していけってさ」 「そうか・・」 東はどんな顔をして遠見を見ればよいか少し迷った。 「びっくりしたよ、いきなり東からこっちにいるって連絡きたから。正月だから帰省してんでしょ?」 「そう、でも明日には東京に戻るよ」 「そっか、ギリギリだったね」 遠見はまだ笑顔を崩さない。 「・・それで、こっちの町にも遊びに来たの?誰かに会った?」 遠見は顔こそ笑顔だが声色にはどこか冷たさを感じた。 「今日、谷岡達と会ってご飯食べたよ・・」 「そう、みんな喜んでただろ。東が引っ越してからも東の話題はよく出るんだよ」 「・・うん、なんか懐かしかったな。楽しかった」 東は遠見にどう話を始めようか考えていた。 とりあえず東は再びベンチに腰を掛けた。 遠見は東の正面に立ったままだった。 「それで・・・ちょっとでも会いたいって、俺になにか話があるんじゃないの?」 遠見は東を見下ろしながら言った。 東はごくりと唾を飲み込み、遠見の顔を見上げて言った。 「あのさ・・一太と遠見が付き合ったのって、本当に一年の時?」 遠見の顔から笑みが消え、上がっていた口角は真っ直ぐになった。 「なんで?」 その声はとても冷たかった。 「誰かから、何か聞いたの?」 東は遠見から目を逸らしそうになるのを必死に堪えた。 「知りたいだけだ。本当にそうなのか。本当に俺がまだここにいた時から一太と付き合ってたのか」 「・・そう言ったじゃん、東が転校する前に・・」 「それが、本当だって、あの時は疑いもしなかった。お前が嘘をつくなんて思いもしないし・・でも、今思えばお前らにそんな素振りはまったく感じなかったし、俺はずっと一太と一緒にいたんだ。お前らがそういう関係になってたなら絶対に気づいたはずだ。だって、俺はずっと一太を見てたから」 「・・・」 東も遠見も目を逸らさずじっと瞳を見つめあった。 そして、遠見は軽くため息をついた。 「はぁ・・東、梓に会ったんだね、それで聞いたわけだ。俺達が付き合ったのは2年の夏からだって?」 「・・別に、わざわざ会いに行った訳じゃない・・親が一太の家を勝手に訪ねて、その時一緒にいたから流れで会っただけ」 「・・そう、本当、仲良いんだね、お前ら・・」 遠見はとても冷たく、そして感情のないような表情をしていた。 「・・なんで、そんな嘘ついたんだ・・?」 東は聞いた。 「なんで?そんなの、わかりきってるだろ、お前らの関係を壊すためだよ」 遠見は少し強めの口調で返した。 「は・・なんだよ、それ・・」 東は目の前にいる人物が、あの穏やかな遠見なのかと信じられなかった。 「なんでそんなことするんだよ?俺ら友達だろ?」 「友達?お前は梓を本当に友達だなんて思ってなかっただろ」 「・・え・・」 東はギクリとした。 やっぱり気付かれていたのか。 「俺も、梓を友達だなんて思ってなかった。お前から梓を奪ってやりたかった、それだけだよ」 「・・だから、あんな嘘ついて、俺が諦めるように仕向けたのか・・」 「ふっ、馬鹿だよね、東。本当にあっさり信じるんだもの。お前の素直さには感謝しかないよ。おかけで本当に梓は俺のものになった」 「な・・んだよ、それ。そんなんでお前は良いのかよ?」 「なんで?最初はどうであれ、今はちゃんと付き合ってるんだ。梓は俺を好きだって言ってくれるし、週に一回はセックスだってする。梓可愛いんだよ、真面目でも気持ちの良いことには弱いんだ」 「・・・」 東は言葉がつまった。 わかっていることでもその話を聞くのは辛い。 他の男に一太が抱かれている姿なんて想像もしたくない。 「だから、せっかく梓を手に入れたのに、なんで邪魔するかな。ずっと、東京に居てくれればいいのに。東京には可愛い彼女がいるんだろ?今更俺達の仲を引っ掻き回すなよ」 遠見は東を鋭い目で睨んだ。 「・・俺は、ただ本当のことが知りたかっただけで・・別にお前らの邪魔をするつもりはなかった、けど・・」 東はついに、遠見から目をそらしてしまった。 「でも、俺の気持ちだって、あったんだ。伝えられなかったけど、お前にあんなこと言われなければ、俺だって一太を好きだって伝えたかった・・」 「・・・」 遠見は東を睨み続けたが、一呼吸するように息を吐いて言った。 「そう・・本当、俺はお前が邪魔だったよ・・」 遠見はそう冷たく言うと、少し大きな声で言った。 「梓、聞いてた?」 え・・? 東は驚いて後ろを振り向いた。 東の後方から少し離れた場所にある柱の横。 そこに一太が青白い顔をして立っていた。

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