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冬 東 ③
残された東と一太は並んでベンチに座った。
東は一太の顔をチラリと横目で見た。
まだショックな気持ちから抜け出せないようで、自分の手のひらを見つめている。
一太の手にはペンギンのキーホルダーが握られていた。
「あのさ、一太・・」
東は言葉を慎重に選びながら話しかけた。
「・・何?」
一太は顔を上げて東を見た。
「さっきの、遠見との話聞いてたんだよな」
「・・うん」
「・・俺、お前のこと、ずっと昔から好きだったよ」
東は一太の瞳を見つめて言った。
一太の表情はあまり変わらなかったが瞳の奥が揺れた気がした。
「本当は転校する前に言うつもりだった。でも遠見からお前らが付き合ってるって、聞かされて、それで言うのやめた。お前のこと諦めなきゃって思った・・まぁ、ちょっと最後に、その、キスしちゃったけどさ」
「あれは・・からかったんじゃないの?」
「そんなわけないだろ。本気だったよ。ただ、冗談にするしかなかっただけ、せめて友達として一太と繋がっていたかったから」
「・・・」
一太は今にも泣き出しそうな顔をした。
それは色々な感情が溢れそうになるのを堪える顔だった。
「・・俺も、俺もずっと好きだった・・」
一太は下を向いて片手で顔を隠しながら言った。
「東のこと、好きな気持ち、隠すのに必死だった。自分でも気づいてないふりしてた・・でも、東に彼女ができたって知って、もう無理だった。辛くてどうしようもない気持ちの時に、遠見がそばにいてくれて、それで・・」
「・・その、お前らが東京来たのも、遠見が考えたことなんだよな・・」
今思えば、あれは遠見からの不自然な連絡だった。
二人で来ると言うのなら、ずっと連絡を取りあっていた一太からその話は来るはずだ。
東京に二人で来る、このことだけはきっと遠見主導で、遠見の思う通りに事を進めたかったのだろう。
そしてまんまと、遠見の考えた通りの結果になった。
あの夏の日に、遠見は一太を手にいれたのだ。
そう考えると東は悔しくてしかたがなかった。
遠見があんなことを言わなければ、しなければ、一太と両想いになれていたのだ。
「・・なぁ、一太」
東は一太の膝におかれた方の手に自分の手を重ねて言った。
「俺達、もう一回、何もなかった頃からやり直せないか」
「え・・」
一太は困惑した顔で東を見た。
「何、言ってんの?東には大高さんがいるだろ」
「・・・そうだけど、鈴花のことは好きだけど、その好きが友情の延長だって、向こうも本当は気付いてる」
「・・なに、それ?」
「修学旅行が終わった後、鈴花に言われた。俺達は恋人ゴッコをしてるみたいだって。俺の本気の気持ちが伝わってこないって」
「・・・」
一太は黙って下を向いてその話を聞いた。
「いつかゴッコじゃなくなるといいな、って言われたけど、それから上手く付き合えてない。冬休みも、こんなに長く帰省しないでどっか遊びに行こうって言われたのに、断った」
「・・お前、最低だな・・」
一太は小さな声で言った。
「わかってる。俺がやってることは最低だよ。でも俺だって、いつかは本気になれるって思ってたから・・鈴花のこと、好きなことは確かだし・・ただそれが今は友達としてだけど、そこから恋愛に変えられるって思ってたんだ」
一太は黙ったまま、下を見つめている。
東は一太の手をもう一度強く握りしめた。
「・・俺は結局、ずっと一太が好きだ。ずっと、昔から。初めて人を好きだって思ったのは一太だよ・・一太の気持ちがまだ俺にあるなら、全部やり直したい」
一太は顔を上げ、東の顔をじっと見つめた。
もうすぐ東が乗らなければいけない列車のアナウンスが流れていた。
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