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冬 遠見 ②
そこには一太の名前があった。
電話に出ようか迷いとりあえず手に持った。
何を言われるのか、怒りの言葉か、絶縁の話か。
明日から学校だ。
話すなら早い方がいいだろう。
これが最後になるかもしれないのだから。
意を決して遠見は電話に出た。
「もしもし」
『もしもし、梓だけど、今大丈夫か?』
電話口からは一太のしっかりとした声が聞こえた。
声のトーンからは、怒っているのかはわからない。
「・・うん、大丈夫」
遠見は平静を装うのにつとめた。
油断したら声が震えてしまいそうだ。
『遠見の、家の近くの公園に来てるんだけど、来れるか?ちゃんと顔見て話したい』
「え?外?寒いでしょ?家に来なよ。今日は父親がいるけど」
『いや、二人でしっかり話したいから。外で良い。寒いから公園誰もいないし』
「・・わかった、すぐ行くから待ってて」
そう言うと遠見は電話を切って、一呼吸した。
うまく喋れただろうか・・
一太らしい真面目な声だった。
迷いのないしっかりとした口調。
遠見は一太の顔を見るのが怖かった。
どれほどの侮蔑の顔をされても遠見自身のせいだ。
しかしいつも笑いかけてくれた一太の顔を思い出すとそれが辛いと感じた。
しかし寒空の下、一太を待たすわけにはいかない。
遠見はダウンを着て家を出た。
公園は歩いて二分ほどのところにある。
公園に着くと一太がベンチに座っていた。
「お待たせ。寒くない?大丈夫?」
遠見は一太の前に立ち見下ろしながら声をかけた。
「うん。寒いけど、雪降ってるとなんか気にならない」
そう言って一太は空を見上げた。
「・・話、すぐする?」
遠見はそんな一太の顔を見ながら聞いた。
一太は遠見の顔を見つめて頷いた。
「うん、明日から学校だから、その前にもう一度ちゃんと遠見と話したかった。隣、座ってよ」
遠見はそう言われ、一太の隣に少し距離をおいて腰かけた。
一太は遠見が座ったのを見ると話始めた。
「・・あれからずっと考えてた。遠見のこと、遠見のやったこと。それから東のこと」
「・・東とあの後ちゃんと話せた?」
遠見は一太の方は見ず、正面を見ながら話した。
「うん・・」
一太も前をまっすぐ見つめたまま答える。
「両思いだったでしょ。全部知ってたよ。一年の時から、二人ともバレバレだったから。気付いてないのはお互いだけ。まぁ、だからそれを利用したんだけど」
「3人でいたから、遠見が一番冷静に、客観的に見てくれてたんだろ」
「梓は東を一番に必要としてる。なのに東は梓の一番でいたいくせに他とも繋がっていたい奴だって、そういう風に思ってた。だから俺なら梓に寂しい思いはさせないのにって、変な自信があったんだよね・・」
「それは・・その通りだよ。あいつは俺以外にも友達が沢山いて、大勢で盛り上がるのが好きなんだ。でも、俺はそんな東が好きだったから・・」
「だよね・・俺、余計なお世話だった・・ごめんね・・嘘ついて。梓が傷つくのを狙って東京にも連れていった。まさか東に彼女が出来てるとは思ってなかったけど。でもそれも、東にそうさせたのは俺の嘘が原因だよね・・」
「・・・」
一太はじっと正面を向きながら無言で遠見の話を聞き続けた。
「そんなことしてでも、俺は梓を手にいれたかった。俺を見てほしかった。東のことなんか忘れさせられるって思ってた・・けど、結局梓の中にはずっと東がいた。俺じゃ忘れさせるのは無理だった。東には勝てなかった」
「・・・」
一太は口をキュッと結んだまま、しかしどこか寂しそうに瞳を伏せた。
「それで、両思いだってわかったんでしょ。どうするの?付き合うことになったの?」
遠見は笑顔で一太に問いかけた。
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