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冬 遠見 ③

「・・俺が・・・」 一太は前を向いたままポツリポツリと話始めた。 「俺が東を忘れられなかったのには理由がある」 「理由?」 「うん、東が東京へ引っ越す日、東が家にやって来て・・その、キスされたんだ」 「え?」 遠見は初めて聞く話に驚いた。 「何それ、初めて聞いた・・」 「言わなかったから。付き合う前も付き合った後も、遠見には言えなかった。あいつはそれを、冗談だって言って出てって、それきり・・それからは何事もなかったかのような普通の連絡がくるし・・俺一人だけがぐるぐると悩んでた」 一太は少し目線を下にした。 「なんで東はあんなことしたんだろうって・・聞きたいけど聞けないしどうしようって、変な期待も混じってた。それで東京に行って会った時に思いきって聞こうと思ってたら、あいつ彼女出来てて、俺の気持ちは完全に空回りだったんだって思った」 「それは・・あいつが俺達が付き合ってるって思い込んでたから、あいつも彼女作って次に進もうとしてたんだろうね」 遠見は自分がしたことのせいだと思った。 それを、今謝るべきか考えた。 しかし、先に一太が口を開いた。 「・・この前、東にもう一度やり直したいって言われたよ」 そう言うと、一太は遠見をまっすぐ見つめた。 「・・そう、良かったね・・」 遠見は一太から目線を逸らして答えた。 「梓達は本当は両思いだったんだから、それが自然だよ」 「そう、なんだろうな。でも・・俺、東の気持ちには応えられなかった」 一太のその言葉に遠見は驚いて一太の顔を見た。   「・・なんで?」 「だって・・俺は今遠見が好きだから・・」 「え・・」 「東をずっと忘れられなかったのは、キスのことがあったから。好きって言う気持ちがずっと残ってたのかって言うと違うと思う。だって、俺は遠見と付き合ってからは遠見のことを一番に考えてた。遠見に嫌われたくない、遠見に気を遣わせたくない、遠見と一緒に居たいって・・」 「・・・」 遠見は思ってもいなかった一太の言葉に心が潰されるようだった。 「遠見と一緒にいるうちに、東のこと考える時間はどんどんなくなっていった。東が何を考えていたのかは気になってたけど、会いたいとかは思わなくなってた。俺は、遠見といることが楽しくて、すごく自然なことだと思ってた」 「梓・・」 「だから、こんな気持ちじゃ東とは付き合えない。それに東だって今ちゃんと彼女がいる。大高さんに失礼だ」 「・・・」 遠見はどう答えていいかわからず、一太の言葉の続きを待った。 「でも・・だからって、遠見とは今まで通りのままってわけにはいかないのは、わかるよね?」 一太は遠見の顔をじっと見つめる。 「俺達、今はもう別れてるんだよね?」 一太は遠見に聞いた。 「うん・・」 遠見は答えた。 「遠見と一緒にはいたい。でも恋人としてはいれない。だって・・やっぱり遠見がしたこと、許せないから。遠見のこと・・好きだけど、前みたいに絶対的に信頼はできない」 「・・わかってる・・・ごめん」 一太にそう言われ、遠見は下を向いて謝った。 覚悟していたことだ。 もう・・無理だということを・・ 下を向いて項垂れる遠見を見て、一太はフゥと一息吐き口を開いた。 「遠見、東にちゃんと謝ってないでしょ?」 「えっ・・」 遠見は顔をあげ一太の方を見た。 「東がちゃんと遠見を許して、信頼してくれるようになるまで・・俺は遠見と恋人にはならない。どれくらい時間がかかるかわからないけど・・東を選ばなかった、選べなかった理由は遠見だから。遠見にはちゃんと東と話をしてほしい。まぁ、遠見がもう俺なんかどうでもいいって言うなら、そんなことしなくてもいいのかもだけど。でも、ちゃんと謝ることはしなきゃだめだよ」 「・・・」 「俺達の初恋、ダメにしたのは遠見だからね」 一太の言葉に遠見はずしりと重いモノを感じた。 一太は遠見の瞳をじっと見たまま聞いた。 「遠見、俺のこと、まだ好き?」 遠見は一太の声と言葉に目頭が熱くなった。 酷いことをしたのに、ちゃんと向き合ってくれる。 ちゃんと見ていてくれる。 「・・好きだよ、当たり前じゃん・・」 遠見は声を絞り出すように答えた。 「うん、良かった」 一太は少し微笑んだ。 一太はなんでこんな自分に微笑みかけてくれるのだろう・・ とても卑劣な行為をしてきたのに・・ 遠見は一太から目をそらして聞いた。 「なんで、まだ俺のこと好きでいてくれるの?俺、今回だけじゃない、修学旅行の時だって梓に酷いことをした。余裕ぶってるけど、いつも本当は全然余裕ない。梓を傷つけてばかりだ」 すると一太は笑いながら言った。 「そりゃ、許せなかったり悲しかったりもしたけど、でも今まで一緒に過ごした遠見は嘘じゃないでしょ?嫌なところが見えたらすぐ嫌いになるなんてこと、俺は出来ないよ。遠見のこと、好きだなって思うところの方が多いんだよ」 遠見はその言葉にたまらなくなって小さな声で言った。 「梓・・・本当にごめん・・」 「うん・・」 一太はそう言うとポケットの中から何かを出した。 「これ」 それは遠見が一太に返したペンギンのキーホルダーだった。 「これはまだ預かっておくね。遠見とは今はまだ、仲の良い友達だから」 「うん・・ありがとう、梓・・本当にありがとう」 シンシンと静かに雪がちらつくなか、遠見は改めて思った。 一太が好きだと。 自分の狡いところも醜いところも責めずに受け入れてくれた。 それでも好きだと言ってくれた。 大切な幼なじみとの関係を壊した自分を・・ 俺はこれからこの気持ちに向き合って、応えていかなくちゃいけない。

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