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春の始まりに ②
一年前、高校三年生に上がる前の春休み。
東のもとへ遠見が一人でやって来た。
連絡は急だった。
「会いたい」の一言だった。
遠見らしい簡潔な連絡に東は苛立った。
こっちは正直会いたくない、遠見を許せない。
いや、いっそ会って怒りを全部ぶちまけてやろうか・・
東は一太に告白をした、あの冬の日を思い出した。
慣れ親しんだ駅のベンチで、東は長年の想いを告げた。
ずっと、ずっと伝えたかった想い。
しかし・・
「ごめん、ごめん東・・東とは付き合えない。ごめん」
一太の口から出た言葉は断りの返事だった。
「なんで・・なんでだよ?だってお前だって・・俺のこと・・」
東は食い下がろうとした。
しかし一太の意思は決まっていた。
「ごめん、東。俺、今は遠見が好きなんだ。遠見のしたこと、許せないけど・・でもずっと一緒にいた、優しくて穏やかな遠見は嘘じゃないと思ってる。俺の好きな遠見は嘘じゃないって・・だから東とは付き合えないよ、ごめん」
一太は東の目をまっすぐ見つめながら、ハッキリとした口調で言った。
その瞳に迷いはなかった。
「・・・」
東はそれ以上何も言えず黙った。
一太は自分の考えに真っ直ぐだ。
一度決めた事で、この先迷う事はないだろう・・
一太はどんな時も、俺を導いてくれた。
だらしがない俺を叱ってくれて、正そうとしてくれた。
そうやって面倒を見てくれることが嬉しくて、わざと正そうとしない事もあった。
一太の隣は居心地が良い。
嘘がないから。
真っ直ぐだから。
自分に向けてくれる好意が嬉しくて幸せだった。
それだけでいいと思っていた。
真面目な一太が同性と付き合うという事に肯定的になれるとは思わない。
別に良い、一太の隣が俺のものなら・・・
そう思っていたのに・・
わかっていた。
もう一太の気持ちが自分にないことを。
一太はもう遠見のことを見ていることを。
それでも、あんな汚い方法で俺達の仲を壊した遠見のことを選ぶのか?
一太を本当に幸せにしてやれるのは俺のはずなのに・・
東はそう思った。
しかしその場ではもう何も言えなかった。
「わかった・・ありがとな・・」
短い返事だけすると、東は逃げるように電車に飛び乗った。
結局、あの二人はうまくまとまったのかな・・
今日遠見が来るのはその報告のためだろうか・・
東は膝の上で両手の手のひらを強く握りしめた。
そんな思いを巡らせていると、横から突然声をかけられた。
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