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番外編 初恋
「一太!!」
名前を呼ばれた一太がゆっくりと振り返る。
少しだけ、眉間に皺を寄せて。
それは彼なりの照れ隠しだということを知っている。
そしてそれを知っているのは、多分俺だけだ。
「東、大きい声で名前呼ぶなよ」
「だって一太、全然俺に気がつかないんだもん」
「真剣に見てんだよ。修学旅行だぞ。お前もヘラヘラしてないでちゃんと見学しろよ」
「へいへ〜い」
東は両手を頭の上に回して軽い返事をする。
一太は「まったく・・」と小さい声で言うと、すぐにまた展示物に目を戻した。
昨日から修学旅行で京都に来ている。
中学三年生になって初めて新幹線に乗った。大きな駅に驚いて、人の多さにも驚いた。
育った町は海が見える小さな町で、道を歩いていてもあまり人に会わない。
けれど、そこで自分の生活は完結してして、不満も不安も特に感じたことはなかった。
それが、初めて修学旅行で『外』に来て、今までなんて狭い世界にいたのだろう・・なんて一丁前に思ってしまったのだ。
興味の無い展示物よりも、もっと色々な所を自由に歩いて見て回りたいと東は思った。
「ねぇねぇ、一太。自由行動って今日のお昼食べた後だけだよね?何時間くらいあるかな?」
真剣に見学している一太の横顔に話しかける。
「1時から3時半ってしおりに書いてあっただろう。だから自由時間は2時間半だよ」
「たったのそれだけ〜⁉︎短すぎるだろ!」
「だから事前に見て回りたい所決めろって先生言ってただろ」
「別に寺や神社が見たいわけじゃないんだよなぁ・・」
ブツブツと文句を言う東を見て一太は軽いため息をつく。
「どうせ、東の班はみんな東の行きたいところについて来てくれるだろ。班決める時もおまえと同じ班がいいってやつらでジャンケンになってたくらいだし」
「なんだよ、一太同じ班になれなかったこと拗ねてんのか〜」
「そんなわけないだろ」
一太はそう言うとプイっとして展示物を再び見始める。
「あっそ〜・・」
同じ班になりたかったのは俺だけってか・・東は心の中で小さく舌打ちをした。
修学旅行の班は仲の良い人同士で好きに組んでいいことになっていた。
当然東は一太に声をかけるつもりだったが、その前にありがたいことに沢山のクラスメイトから声をかけられたのだ。
結果、班の制限人数を超えてしまったため東と同じ班になりたい者達でジャンケンをすることになった。しかし、その中に一太の姿はなかった。
一太の中で、俺は今どれくらいの位置にいるのだろう。
一太を初めて知ったのは小学ニ年生の春のクラス替えだ。
その頃の東はどちらかと言うと落ち着きがなく、忘れ物も多いし宿題もやってこない、毎日何かと先生に叱られる生徒だった。
誰にでも臆せず話しかけるので友達は多いが、問題児とも思われていて「あまり東君とは遊ばないでほしい」という保護者もいた。
そんな東に対して、その時の担任が考えたのが真面目で模範的な生徒、一太を隣に座らせることだった。
「なぁなぁ!名前なんて言うの?」
突然なんの前触れもなく話しかけられ、静かに席で本を読んでいた一太は目をまん丸に見開いて東を見た。
「え・・梓 一太・・」
「あずさ⁉︎俺の名前、あずまって言うんだ!似てるね!」
「あずま・・?」
「そう!俺、長洲 東!よろしく!」
「・・よろしく」
一太はすっかり東の勢いに押されてポカンとした顔で応える。
大人しそうだなぁ〜。仲良くなれるかな?
東は横目で一太をチラリと見ながらそんなことを考えた。
しかし、そんな不安は数日であっさりとかき消された。
「東君!ほら!早くして!」
「ちょっと待ってよ〜」
バタバタと二人で廊下を駆けて行く。
「なんで赤白帽子が机の奥から出てくるの⁉︎体育着袋にちゃんと入れておきなよ!」
「いや〜なんでだろね?一緒に探してくれてありがとな!一太!」
「だから一太って呼ばないでってば!」
一太は走りながらプクッと頬を膨らます。
「なんで?一太は一太じゃん」
「昔話みたいでやだ!」
「かわいい名前だけどなぁ」
東はそう言いながら下駄箱で靴に履き替える。
それから二人は急いで校庭へと向かった。
「長洲君!梓君!遅いですよ!」
すでにキチンと整列している生徒の前で先生が大声で言った。
「ごめんなさい!」
一太はバッと頭を下げて謝る。その様子を見て、東は一太を庇うように前に出て言った。
「先生〜!梓君は俺の赤白帽子一緒に探してくれたんです。なので悪くありません」
それを聞いて先生はフゥとため息をつく。
「梓君、ありがとう。長洲君、梓君に迷惑かけないように自分のことは自分でちゃんとやりましょうね」
「はぁい!」
東は笑いながら返事をして、一太の方へ目をやる。
すると一太は頬を赤くしながらプイッと顔を逸らした。
隣の席になって以来、一太はダラシない東を見かねて何かと世話を焼いてくれる。
宿題の提出も明日の連絡も頼んでもいないのに必ず確認してくれるのだ。
いつしかそれは当たり前の事となり、気がつけば毎日一太と東は一緒に行動していた。
そしてそれは、学年が上がっても変わらなかった。
もともと一つの学年に二クラスしかない小さな小学校だ。卒業まで東と一太はずっと同じクラスで過ごした。
東は年齢が上がるにつれて落ち着いていき、問題児からいつしか明るく元気な人気者に変わっていった。
クラスメイト達は東の行動に一喜一憂して盛り上がり、東もそれに応えるように誰に対しても分け隔てなく仲良くした。
しかしそれでも、東が常に一緒に行動したのは一太だった。
一太の隣は居心地がいい。自分の足りない部分を補ってくれるようで、二人でいてやっと安心して呼吸ができるようなそんな気持ちになっていた。
それはきっと一太も一緒だ。
一太は自分ではうまく手を抜けないところを、東が代わって抜くことでガス抜きをしているようだった。真面目ゆえに自分では気を抜く方法が見つけられないのだろう。
東の隣にいることでカチカチに固まった頭を少し休めることが出来る。
俺達はお互いのためにも一緒にいなくちゃいけないんだ。
東はそう強く思った。
しかし、中学に上がるとそんな気持ちにズレが生じるようになってきた。
「一太!今日の放課後、クラスのやつらと遊ぼうぜ!」
東は今までのように一太を遊びに誘った。
小学生の頃は放課後になるとクラスみんなで公園などに集まって遊ぶ。それは日常茶飯事だった。一太も積極的に遊びには参加しないが必ずその中にいた。
それが中学生になってからは、「俺はいい」と一太は言うようになった。
「なんで?今日は田町の家でゲームしようって言ってんだよ!一太も来いよ〜!」
「だから俺はいい。俺、田町君とはまだあんまり話したことないし。急に俺がきても困るだろ」
「田町は何人来ても大丈夫って言ってたぜ。あいつの家すっげーデカいんだって!」
「・・とにかく俺はいい。やることもあるし」
「やることって何?一太何かあるの?」
「色々あるんだよ!もういいだろ!」
一太はそう言うとプイッと振り返り行ってしまった。
「なんだよ・・」
俺より優先するものがあるっていうのか?東は遠ざかって行く一太の後ろ姿を
睨みつけた。
「え?梓にも声かけてたの?」
田町は自分のベッドに転がりゲーム画面を見つめながら聞いた。
「うん。でもあいつ予定あるってさ」
東はカチャカチャとコントーラーのボタンを押して言った。
「なんだ。よかった」
田町が安心したような声で言う。
「よかった?」
「だって俺、梓とあんまり話したことないもん。東はさ、すぐに仲良くなれたけど梓はなんか近寄り難い感じで」
「そうか〜?」
「そうだよ。お前らと違う小学校のやつらはみんな言ってるよ。梓は話しかけにくい」
「一太真面目だからなぁ〜」
東はケラケラと笑う。
「でもそこが面白いし、いいやつなんだよ」
そう。一太はバカ真面目だがそこが面白いし魅力なのだ。
みんな気づいてないんだな。
そう思うとなんだか優越感のような気持ちが芽生えた。
一太のことをよく知っているのは俺だけだ。
それはこれからも俺だけでいい。
そう思い始めた時だった。
「梓君。これ使っていいよ」
知らない男子生徒が一太に話しかけている。おそらく上級生だろう。
「ありがとございます!」
一太は本当に嬉しそうに笑顔でお礼を言った。
肩に黒い大きな袋をかけている。
男子生徒が去って行くのを見ると、東は後ろから一太に声をかけた。
「何それ?」
「うわっ!驚かすなよ!」
一太はビクッと肩を揺らして振り返る。
「なんか重そうなもの持ってるじゃん」
「これは・・天体望遠鏡だよ。今の先輩がもっと高性能なものを買うからって古いものを譲ってもらったの」
「天体望遠鏡〜?一太星でも見るの?」
「そうだよ。星を見るの!悪いか?」
「別に悪くないけど。なんだよ、いつからそんな趣味持ってたわけ?」
「去年の冬から。なんとなく空見てたら星が綺麗だったんだよ。だから中学入ったら天文部に入りたいなと思ったんだけどなくて。それで先生に相談したら、星好きの先輩を紹介してくれたんだ。それがさっきの飯塚先輩」
「ふ〜ん・・」
なんだそりゃ?そんなこと全く知らなかったぞ。
「天体望遠鏡がほしくてさ。自分の誕生日までは待てないって思ってたら先輩があげるって言ってくれて。金曜の夜に一緒に観測会もする約束してるんだ」
「はぁ⁉︎」
東は思わず大きな声をあげた。
「夜って夜か⁉︎夜にあの先輩と二人で出かけるのか⁉︎そんなのお前の母ちゃんが許さねえだろ⁉︎」
「出かけないよ。俺の家の庭から一緒に見るの。母さんにももう話してある」
「・・・」
東は何も反論出来ず思わず黙りこむ。
それからブスッとした顔をすると無言でその場を離れた。
非常に面白くない。
一太がいつの間にか自分の知らない趣味を持っていて、自分の知らない間に知らない先輩と出会い会話をし約束をしている。
こんな一太は俺の知ってる一太じゃない。
すっか辺りは暗くなった午後八時。
東は静かに一太の家の前に立った。今日は金曜日、一太が言っていた観測会の日だ。
一太の家は門扉を開けるとすぐ横に庭があり、そこで何かしていれば塀に囲まれた家でも声が聞こえて中の様子がわかる。
東はそっと塀沿いを歩くふりをして耳を傾けた。
するとかすかな笑い声が聞こえる。
一太の声と、それから聞きなれない人物の声。おそらく「飯塚先輩」なのだろう。
一太が誰かと笑って話している。
それは今まででにもあったことだ。
けれどなぜ、今回はそれがこんなにもモヤモヤするのか。
答えはわかっていた。
一太が自分の知らないところで仲良くなった人物だからだ。
これまでは一太の友達は東の友達でもあった。東の繋がりで仲良くなるのがほとんどだった。
それが今回は違う。一太が自分で見つけ、自分で距離を縮めていった。
そんな事をする一太は知らない。
一太に自ら見つけてもらえた存在。
それが東には羨ましくて仕方がなかった。
それから少しの間、東はジッとその場に立っていた。気がつくと声はしない。
どうしたのだろうと門扉の方へ目を向けると、ガチャリと音がして一太が現れた。
「何やってんの?東」
一太は心から驚いたような様子で目を丸くして東を見つめた。
「えっと・・」
東は咄嗟のことで言葉が出ずにキョロキョロと辺りを見回す。
「どうしたの?梓君」
すると一太の後ろから飯塚先輩がひょっこりと顔を覗かせてきた。
「あ、いや友達がいて・・」
一太は紹介するように東に目を向けた。
「同じクラスの長洲君です」
「あぁ!長洲君!知ってるよ!三年の中にも長洲君のこと話しいてる女子がいるし」
飯塚はニコリと笑いながら東に目を向ける。
「君、元気で目立つよね!梓君と友達だったんだね。意外だなぁ。タイプが違うように見えるけど」
「小学生の頃から俺が面倒見てるだけです。東、だらしないんで」
「なっ!なんだよ一太!お前がクソ真面目すぎるの!そんなんだから付き合いづらいって思われるんだろ」
「なんだと?」
一太はそう言うとキッと東を睨む。
すると飯塚は優しい視線を一太に向けて言った。
「はは!梓君の真面目なところ、ずごくいいと思うよ。いつか君のそんな良さに気付いてくれる子が現るから大丈夫だよ」
「え・・」
一太の頬が少し緩む。それから眉間に皺を寄せながら「ありがとうございます・・」とポツリと言った。
それは一太が照れた時の癖だ。素直な表情が出せなくて眉間に皺が寄ってしまう。
「それじゃ、俺帰るね。お邪魔しました。長洲君も気をつけて帰るんだよ」
飯塚はそう言うと一歩前へ進んだ。
「あ、ありがとうございました!」
一太はペコリと頭を下げる。飯塚はその様子を見るとヒラヒラと手を振って去って行った。
飯塚の後ろ姿が見えなくなったところで一太が口を開く。
「で、本当にここで何やってんだよ?どっかからの帰り道?」
「・・・別に。ちょっと散歩してただけだよ」
東は面白くなさそうな顔でプイッと後ろを向く。
それから何も言わずにスタスタと歩き出した。
「あっ、おい東?」
一太が声をかけたが東は止まることなくそのまま自分の家への道を歩き続けた。
一太を理解する人間がこれから現れる?俺以外に?
そんなこと考えたこともなかった。
一太は、俺のものだろ?
その思いが浮かんだ瞬間、東の足がピタリと止まる。
それから心臓の鼓動が早くなったのを感じて胸に手を当てた。
あぁ、そうか。俺は一太が好きなんだ。
それはただの好きじゃない。
友情以上の、特別で大切な気持ち。
こんな感情は一太以外に生まれたことはない。
東はグッと胸元を掴みながら夜空に浮かぶ半分の月を見上げた。
それからというもの、東が一太への気持ちを自覚してからも二人の関係は変わらなかった。
東が変えることをしなかったからだ。
バカ真面目な一太にこの気持ちがバレてしまったら、きっと距離を置かれてしまう。
今のままでいることが、一番一太のそばにいられる。
東はそう思った。
ーピピっと先生の笛の音が聞こえた。
「ではこれから班ごとの自由行動とします。3時半にまたここに戻ってくるように!」
先生がそう言い終わると、ザワザワと生徒達が一斉に動き出した。
バス停へ向かう班もいれば地下鉄の駅を目指す班もある。
東はキョロっと辺りを見回す。するとちょうど一太達の班も歩き始めたところだった。
隣の男子生徒と何か話している。
一太はそのまま東の方を振り返ることなく人ごみの中へ消えていった。
今でもずっと、一太のことを特別だと思っている。
そして一太にとっても俺は特別なはずだ。
態度は素っ気なくても、何かあれば必ず助けてくれる。何かしていても優先してくれる。
それは、俺が特別だからじゃないのか、一太?
ーー
「おい!大丈夫か?」
一太の声がして東は目を開いた。
「あれ?今何時?」
「まだ2時だよ。自由行動時間中」
「一太、戻ってきてくれたの?」
東はほとんど並行に倒していたバスの座席をもとに戻して起き上がった。
「そうだよ。『気持ち悪いからバスの中で休んでる』ってメッセージきてたから・・一応心配になるだろ」
「一太の班のみんなは?」
「今頃金閣寺だろうな。別にいいよ。大人になった時にまたくればいい」
「一太・・」
ほら、戻ってきてくれた。
こんな仮病だってバレバレの嘘にも、律儀に心配してくれる。
「気分どうだ?みんな戻ってくるまでまだあるし寝てればいいよ」
そう言って一太は東の顔を覗き込む。顔色を見ているだけなのだろうが、あまりの近さに東の心臓はドクンと跳ね上がった。
「い、いや。もう大丈夫!寝たらスッキリしたわ!ありがとな!」
「そうなのか?大丈夫ならいいけど・・」
一太は納得していない様子で東を見る。
「これからどうする?東の班今どこにいるんだろ。合流できそうならするか?」
そう言って一太はスマホの時計を見た。
「え・・一太はどうすんの?」
「俺は今から行っても金閣寺ついた頃にはもう戻んなきゃいけないし・・バスで待ってようかな・・」
「だったら俺もバスの中で一太と待ってるよ!喋ってようぜ!」
「でもお前自由行動楽しみにしてたんだろ?つまんないじゃん、バスの中じゃ」
「いいよ!一太といられれば!」
「え・・」
一太は目を見開いて少し頬を紅潮させる。それから眉間に皺を寄せて「あっそぅ・・ならいいけど」と小さく呟いた。
するとちょうどそのタイミングで先生がやってきた。
「おっ、長洲目が覚めたか。どうだ気分は?」
「大丈夫っす!でももう班に合流するのも大変なんで梓君とバスで待ってますよ」
「そうか?お前ら二人で行動するならこの辺り回ってきてもいいぞ?せっかくまだ1時間くらいあるんだし」
「えっ!いいんですか?!」
東は目を輝かせる。
「梓がしっかりしてるから特別にだぞ。梓なら長洲が何かしようとしても止めてくれるだろう」
「何すか先生〜!でもありがとうございます!よかったな!一太!」
「あ、あぁ。ありがとうございます、先生」
一太も嬉しそうに微笑んで言った。
それから二人は、バスが止まってる駐車場近くのお土産屋さんへ行くことにした。
「よかった〜。母ちゃんが京都のお土産は絶対買ってこいってうるさかったんだよ」
東はそう言いながら店内を見て回る。
「何か頼まれてるのか?」
一太はお菓子の箱を手に取りながら聞いてきた。
「京都っぽいものって言ってた。あとお菓子じゃなくて残る物がいいって」
「うーん。なんだろうな。京都っぼくておばさんが好きそうな物かぁ」
一太は先程まで見ていたお菓子を置いて、手鏡など小物が並んでいる方へ進んだ。
それから一つ一つにゆっくり目を向ける。
「これとかは?可愛いよ」
そう言って一太が手に持っていたのは小さめのがま口サイフだった。
「財布かぁ。でも母ちゃん持ってるよ」
「小物入れに使ったっていいんじゃない?飴入れたりさ。それにこの柄綺麗だしおばさん好きそう」
「たしかになぁ。うん!じゃぁこれにしようかな!」
東はうんうんと頷くとがま口サイフを手に取った。
「じゃぁ買ってくる!まってて!」
東はそう言うとレジの方へと向かった。
一太は店内をウロウロと見て回ることにした。
自分の家にも何かお土産を、と思いもう一度お菓子のコーナーへと戻る。
「八ツ橋にも色々な味があるんだなぁ」と独り言を呟いた時、後ろからトントンと肩を叩かれた。
振り向くと東がズイッと小さな紙袋を一太の目の前に差し出す。
「お待たせ!ほら!これ一太へのプレゼント!」
「え?プレゼント?何の?」
「わざわざ戻ってきてくれたから、そのお礼!!レジ前に売っててカッケーから買っちゃった!俺とお揃い!」
「お揃い?」
一太は丁寧に紙袋のテープをピリピリと取って中を開く。
すると中には小さな刀がついたキーホルダーが入っていた。
「何、これ?日本刀?」
「そう!かっこいーだろ!ちゃんと鞘から抜けるんだぜ!お揃いでカバンにつけようよ!」
一太は一瞬手のひらの小さな刀を見つめたまま黙ったが、すぐに小さく頷いた。
「・・うん、ありがとう、東」
「こっちこそ、本当いっつもありがとうな!」
東は嬉しそうに自分の刀のキーホルダーをカチャカチャと揺らして言った。
お揃いのものを持つ。
それは本当は一太を縛っておきたい東の気持ちの表れだ。
これから先も、一太とお揃いのものを持つのは俺だけでいい。
東はギュと手のひらのキーホルダーを握りしめながら思った。
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