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第4話

「……、…なんだよ」  愛撫が途切れたことに不満を零す様に、青年は貴遠を見つめた。 「これからが本番だろ」  唇にネクタイを咥え、その瞳はボンテージのものに変わっていた。 「だめだ」  その顔を、手で塞ぐように貴遠は押し退けた。 「ガキは抱かない。あと、一か月待つんだな」 「…チ…。萎えるわ」 「これくらいで萎える?ソレは、自分で処理するんだな」  ちらりと貴遠の瞳が、青年の下肢を見る。きつく張り詰めたジーンズの股間をパーカーで隠すと、青年はそっぽを向いた。 「送っていく。…家は、どこだ」 「それは面倒だから、駅でいい。あんたも、いろいろ面倒だろう」 「…そうか。それはありがたい」  貴遠はバックミラー越しに運転手を見た。運転手は了解したように頷き、ウィンカーを出し、ハンドルを切った。  駅に着くと、何の指図なしに運転手が後部座席のドアを開けた。 「便利だね」  口笛を吹いて、青年が降りようとするのを、貴遠の指がその腕を掴む。 「…なに?」  青年は僅かに目を瞠って、貴遠を見返した。 「名前を、聞いていない」 「名前?…あー、ルイでいいよ」 「ルイ?どうせ、本名じゃないだろ」 「…まぁね。あんたは?」  貴遠は、黙って、青年を見た。青年はその瞳を黙って見返している。 「キオンでいい。俺は別に偽るつもりは無いから、お前の好きな名で呼べ」 「キオンちゃんね」  黒縁眼鏡を掛けると、ルイと名乗った青年は振り返り手を振った。 「また、よろしくね」  流し見るように見たレンズの奥に、美しく鋭利な瞳が覗く。 「あぁ」  貴遠の返事を聞くと、静かに運転手はドアを閉めた。  ルイの背後で、ベンツは走り去っていく。 「知ってるよ」  小さくなっていくベンツの白い影を見て、ルイは唇を舐めた。 「…またね、オニイチャン」  ルイは、時計を見た。12時を回った針は、6を指していた。  ルイと名乗った、加瀬礼が18歳を迎えるまで、一か月を切っていた。

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