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第2話 2069年8月18日①

《おはよう片桐くん。そろそろ起きる時間だよ》  午前七時。片桐は最愛の人の素晴らしい美声で朝を迎えた。 「おはよう哀川さん。今日は何日だっけ? 外はどんな天気かな?」 《今日は2069年8月18日。午前中は快晴だけど、午後になると雨が降るかもしれないから、もし外出するなら傘を持って行った方が良いと思うよ》 「そうですか……じゃあ今日の午前中に買い物に行って、午後はふたりで映画を観て過ごしましょうか」 《それは良い考えだ。では片桐くんが出かけている間に、是非君に観せたい作品を何本か選んでおくよ》 「それでは俺も片桐さんに観せたい映画を選んでおきます。片桐さんが絶対観ないようなヤツです。片桐さんはアクションやスパイものが好きでしょう? 対して俺はSFやファンタジーが好きなタイプなので」  生前の片桐は生真面目な風貌に似合わない、激し目な映画を好んで観ていた。片桐は何度か哀川と共に映画館で鑑賞したが、鼓膜どころか骨の髄まで響く音質が売りである最新の音声技術は、度々片桐を悩ませた。  互いの予定が合わず、チケットが上手く取れなかった時は離れた席になってしまうこともあるが、映画好きな哀川が好むミニシアター系の映画館は自由席のため、片桐は哀川の隣に座ることができた。  片桐としては自分の好きなSFやファンタジーの長編大作を何度か勧めてみたが、あまり良い反応は返ってこなかった。だからこそ片桐はこれを機にシリーズの一作目、もしくは注目作を観せて関心を持ってもらおうという魂胆があった。 「そろそろ出かけようかな。哀川さんごめんね。外出中はスイッチを切らせてもらうよ」 《ああ、片桐くん。オフにする前に、ひとつ教えてくれないかい?》 「どうしました?」 《……君にこんなこと聞くのは悪いと思っているんだけど、その、僕自身のためにも教えてくれないかい?》 「いいですよ。何でも聞いてください」 《僕が事故で死んだのは、いったいいつのことだい》  片桐の頬がピクリと震える。  AIになった哀川だからこそ、動揺は悟られたくない。慎重に呼吸を整え、片桐は穏やかな声で伝えた。 「……2068年12月25日。その日は珍しくホワイトクリスマスだったんです」

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