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第4話 16ヶ月前
初めて出逢った時、片桐と哀川は店員と客の関係だった。片桐は哀川を一目見た瞬間、運命の相手に巡り合ったと感じた。
AIによる自動運転が主流になると同時期、電気自動車も全国的に普及し始めたため、ガソリンスタンドも電気ステーションへと姿を変えつつあった。それでも片桐は自分がオイル臭くないかを気にし、照れ臭さからいつもよりもキャップを目深に被り、哀川と対面した。
「い、いらっしゃいませ。本日はどうされますか?」
「フル充電で頼むよ。これから遠出しなくてはならなくてね」
後に哀川と知る男は三十代半ばのスマートでとびきりのハンサムだった。哀川の車には企業ロゴが入っており、おそらく出張か営業回りなんだろうなと片桐は推測した。
「ガラスはいかがしましょう? 吸殻等はありますか?」
「窓は結構。吸殻も問題ない。さすがに社用車で吸うわけにはいかないだろう?」
「ということは普段はよく吸われるんですか?」
「ああ、たまにね」
「では吸殻を捨てる際は是非私どもの店で。洗車サービスしますよ!」
「元気がいいねえ、君。新人かい? 見ない顔だけど、学生さん?」
「は、はい。片桐と申します。学生じゃなくて……えっと、その、フリーターってやつです……」
そのとき、給電が終わった合図が鳴った。片桐がコードを抜くと、哀川は支払いを済ませた。
「またのお越しをお待ちしております!」
片桐はキャップを外し、頭を下げ、いつもの倍ほどの声で哀川を見送った。
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