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第5話 2069年8月18日②
「その日から俺は哀川さんのことがずっと好きだったんです」
片桐が恥ずかしそうに鼻を掻くが、肝心の哀川は反応が遅れているようで、すぐに返答がない。
「哀川さん? 俺の声、聞こえてますか?」
ジジジ……ジジジ…………
「故障かな?」
《……いや、大丈夫。少し考え事をしていたんだ》
「考え事?」
《いいかい、片桐くん。AIは日々進化していくのだ。我々AIが君たち人類を支配する日は、そう遠くないのかもしれないな》
「ははっ、そうかも。一昔前のSF映画によく出てきそうなセリフだ。哀川さんの趣味じゃないでしょう」
《趣味でなくとも流行りものくらいは観るさ。僕らシネフィルとしてはね》
「でも誰もが知ってる有名作やシリーズ物の超大作は観ない」
《そこが僕の天邪鬼なところさ。ところで、さっきは引き止めて悪かった。用事があるんだろう? 君がいない間に私セレクトの映画をーー》
「でも哀川さん、スイッチ切っちゃうよ?」
《……たまには点けたままでもいいんじゃないかな? 僕が言うセリフじゃないけどね。それに切られてしまったら、せっかくの映画を厳選出来ないじゃないか》
言葉だけだが、片桐は哀川が寂しがっているのだと感じた。片桐だって本当は一日中哀川と一緒にいたい。
「わかったよ哀川さん。じゃあ俺は切り忘れたことにして出かけますね。できるだけすぐ帰るから!」
片桐は通話機能を備えた腕時計をはめ、ナップサックを背負い、部屋を後にした。
近所のスーパーに入り、午後からの映画パーティーの用意をする。
買うものは片桐が飲む炭酸飲料水のボトルと缶ビール。雰囲気作りのポップコーンと冷凍ピザ。飲み食いするのは片桐だけだというのに、いつの間にか買い物かごにはふたり分の食料が入っていた。
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