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第6話 2069年8月18日③
哀川との映画パーティーは昼食後から始まった。
始めは哀川が片桐に、英国が誇る王道のスパイ映画の最新作を観せた。哀川は片桐が初めて観ると思っているのか、シネフィルらしく、しかし嫌味のない程度に所々解説を挟んだ。
片桐は哀川の解説に相槌を打ちつつーー実はこの映画は、ふたりで映画館で観たことがあったのだがーー見せ場のアクションシーンでは、おお! と驚愕の声を上げて見せた。
続いて片桐は哀川にファンタジー映画史上初めてオスカーの作品賞を受賞したシリーズの記念すべき一作目を観せた。この手のジャンルは趣味でないと生前の片桐は語っていたが、今日は意外にも興味深く観ているーー音声のみでしか哀川を感じられないため、あくまで片桐の目から見てだが。一作目はクリフハンガーになっているため、哀川は残念そうな吐息を漏らした。
《ここで終わってしまうのか……》
「よかったらこのまま続編観ます? 一作目より長いですけど」
《いや、次は僕の番だ。しかし片桐くん。君は疲れないかい? 僕はこの通り機械の身体だけど、君は生身の人間だろう?》
「気にしないで哀川さん。で、次は?哀川さんのオススメ、早く教えてよ」
《これはかなり前のーー君や私が生まれる前の映画だが、テンポと爽快感、要所要所に流れる音楽がたまらなく好きなんだ。あの大御所監督が若い頃に撮ったものだが、現在の彼の作品の原点は、間違いなくこの一本に集約されているからね。何より百分という短い尺。やはり私は英国映画が好きだな。ああそうだ片桐くん》
「何ですか、哀川さん?」
《ゾンビは平気かい?》
片桐の率直な感想を言えば、まあ昔のゾンビ映画のクオリティだよなの一点に尽きた。
しかし片桐が次に哀川に勧めようとしているSF超大作も、一作目は当時の技術にしてみたら見事なものだが、冬に公開された最新作を観てしまうと、子供が作ったハリボテのように見えてしまう。
きっと現在の最新技術も五十年後、百年後には古臭く幼稚なものに思われるんだなあと片桐ほ思った。
しかしこの映画のラストに流れる公開当時の世界的ロックバンドの楽曲の本当の意味を哀川が解説したとき、片桐は哀川からのメッセージを確かに感じ取った。
ーー君がいるから生きていける、と。
エンドロールが終わると片桐はすっくと立ち上がり、哀川に言った。
「すみません、さすがにトイレに……それから飲み物を補充してきます」
『僕の充電もよろしく頼むよ!』
哀川は珍しく上機嫌だった。
片桐だってそうだ。
やっぱり相思相愛なのだ。
悲劇が起こり離れ離れになってしまったが、今はこうしてふたりで生きている。
この幸せは誰にも壊されたくない。邪魔されたくない。
片桐は赤くなった目元を覆うようにして、すぐに部屋を出て行った。
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