7 / 11

第7話 2069年8月18日④

 時刻は深夜零時に迫ろうとしていた。 《どうする?》  優しい哀川はそう訊いたが、片桐が缶ビールを掲げると、その後は何も言わなかった。  最後に片桐が哀川に観せたかった作品は、元々決めていた通り、SF超大作シリーズ最終章の何と五十年後に作られた世界的にも特大ヒット作になった映画だ。  同じシリーズでも作品によって良し悪しはあるが、とにかくシリーズのファンである片桐は当然全世界公開初日のチケットを買い、哀川と観に行った。SFを避ける哀川でも実はミーハーなところがあり、この作品だけは初日のチケットを買うと知っていた。  まさかこの映画が生前の哀川と観た最後の映画になるとは思いもしなかった。  当時を思い出してやや憂鬱になっている間、哀川は前も聞いたことがある不穏な機械音を発していた。  ジジジ……ジジジ……  また故障か? と片桐は思ったが、映画はもう始まっていた。お決まりのオープニングが始まってすぐ、哀川はぼそりと呟いた。 《……片桐くん。私はこの映画を劇場で観た記憶があるんだ》 「そうだよ哀川さん。全世界最速のチケットは取れなかったけど、レイトショーをふたりで観たじゃないですか」 《レイトショーを、ふたりで……?》  ジジジ……ジジジ……  ジジジ……ジジジ……ジジジ…… 「……そう、ふたりで観たじゃないですか」  ジジジ……ジジジ……  ジジジ……ジジジ……ジジジ…… 《僕がこの映画の最新作を観たのは初日じゃなくて次の日のレイトショーだ。金曜日は会社の忘年会でね。私は間違いなく、公開日に映画館へ行っていない》  片桐は唇の端が引き吊る感覚を味わった。 「嫌だなあ、哀川さん。もしかして本当に故障しちゃいましたか? 一度業者に診てもらったほうがーー」 《僕は極めて正常だよ、片桐くん。前々から疑問に思っていたことが、たった今、君自身の失言のおかげで、見事に解消されたよ》  ジジジ……ジジジ……  片桐の目の前にノイズが走る。  まるでこの後の哀川の言葉を遮断するかのように。  ジジジ……ジジジ…… 《僕と君は恋人同士じゃない。まったくの他人だ。そもそも片桐くん。君はいったい何者なんだ?》

ともだちにシェアしよう!