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「そういうのってフェアじゃねえよな。男同士なんだからよ、互いに体張るべきなんじゃねえの?」
「なっ……」
瞬間、掴まれていた腕が急に白鷹の方へと引っ張られ、即座に俺の背中に両腕が回された。完全に抱きしめられる恰好になり、驚いた俺は慌てて白鷹の胸を両手で押した。
「な、何すんですかっ……」
俺がどんなに力を込めても、白鷹はビクともしない。それどころか益々俺を抱きしめる腕の力が強まり、背中の一点に鋭い痛みが走った。
「男なら体張れよ、チカ」
「っ……!」
背中に強い衝撃を受けたと思ったら、俺の体はレジカウンター奥の壁に叩きつけられていた。硬い壁と屈強な白鷹の体に挟まれ、息をするのも苦しくなってくる。
ニット帽を脱がし、白鷹が俺の顎を捕らえてグッと上へ持ち上げた。
「――んっ」
上から覆い被さるように白鷹が俺の唇を塞ぐ。俺はそれから逃れようと、必死に白鷹の腕や肩を押したり叩いたりした。だけどどんなに暴れても白鷹は物ともせず、強引に舌を侵入させ、俺の口腔内をかき回している。どうにもならない圧倒的な力の差に、目から涙が溢れた。
「ん、やっ……やめ、ろっ……」
コートの前を開かれ、白鷹が中のTシャツを強く引っ張り上げてくる。剥き出しになった肌が冷たい空気に触れ、俺は思わず身震いした。
「こ、んなこと……して、誰か来たら……」
店のシャッターは半分以下まで下りているが、かといって誰も入って来ないという保証はない。返品の客が来るかもしれないし、最近だって、隣の店のスタッフが差し入れを持って来たばかりだ。
「じゃ、全部下ろしちまえばいいだろ」
白鷹がリモコンを操作し、無慈悲にシャッターを下ろして行く。唯一の出口を塞がれ、俺は自分の軽弾みな発言を後悔した。
「や、だっ……ぁ、やめろっ……」
「暴れんなよ、チカ。店壊す気か?」
「あっ、……」
バランスを崩して床に倒れた俺の上に、白鷹が馬乗りになる。解かれたマフラーが素早く両腕に巻き付けられ、あっという間に抵抗できない状態になってしまった。
「お、俺も大和も……あんたのこと、尊敬してたのに……」
大和の言う通りだった。白鷹は信用してはいけない男だったのだ。
今のこの状況は、白鷹に隙を見せた俺への罰なのか。
それとも、大和の夢を真剣に考えてこなかった罰なのか――。
「失望させて悪かったな。でもチカが体張るなら、俺も大和の返済をチャラにしてやってもいいって思ってるんだぜ。それどころか、お前らが店持つ時は全面的に協力してやるよ」
その言葉に、俺は一瞬抵抗を止めて白鷹を見上げた。
「……本当か」
「さあな? お前次第」
意味ありげに笑い、白鷹が体をずらして俺の腹に唇を落としてくる。
「んっ……」
ゆっくりと舌で肌を撫でられ、寒さとは別の震えが全身を走る。俺はマフラーで腕を拘束されたまま身を捩り、何とか白鷹から逃れようとした。
「あっ、……あぁ」
舌先で乳首を弾かれた途端、震えが電流に変わった。涙が滝のように頬を伝っている。白鷹は俺の背中に腕を回し、体を抱えるような恰好で乳首を吸い上げている。大和以外の男と経験のない俺にとって、それは耐え難い屈辱だった。
「乳首立ってるぞ。そんなに寒いか?」
「やっ、めろ……もう、嫌だっ……」
「すぐ熱くなる」
「やだっ、あ……あぁっ!」
白鷹の手がジーンズに触れ、抵抗する間もなくボタンを外された。続いて下ろされたファスナーの中へ、強引に手をねじ込まれる。
下着の上から俺のそれに触れ、白鷹が笑った。
「お姫様のくせにいいモン持ってるじゃん。ネコなのが勿体ねえな?」
「やっ、……さ、触るなっ……」
鷲掴みにされて身体がビクつき、背中が弓なりに仰け反ってしまう。白鷹の手の動きは大和のそれと違って痛いほど荒々しく、同時に頭の中まで犯されそうになるほど卑猥なものだった。
「勃ってきたな。脱がしてたっぷりイかしてやる」
「ふ、ざけんなっ……、やめろっ……」
頭と口では拒否しているのに、その部分だけが白鷹を受け入れているようで……堪らなく悔しい。触れられているのは自分の体なのに、自分の意思でそれを抑えることができないのはどうしてなのか。
「あっ、あ……、あっ!」
ジーンズと下着が呆気なく取り去られ、大きく脚を開かされる。口を開けた白鷹が勢いよく俺のそれにしゃぶり付き、その瞬間、腰と内股が驚くほど激しく痙攣した。
「や、あぁっ……! あっ、あ……やめっ……」
空気が冷えているからか、白鷹の口の中は火傷しそうなほど熱かった。
「く、……ぅ、んぁっ! も……やめ……」
擦り、吸い付き、激しく絡み付いてくる白鷹の舌。その強烈な刺激に、徐々に意識が薄くなって行く。
「ひっ――あ、ああぁっ!」
突然音をたてて先端を吸い上げられ、床から腰が浮いた。
「やっ、やめ……! あぁっ、嫌っ……だ、……白、鷹っ!」
どんなに腰をよじっても白鷹はそれを止めず、まるで蕎麦でも啜るかのように俺のそれを吸っている。少しでも油断したら、一瞬にしてイッてしまいそうだった。
「も、無理っ……!」
俺のそれを口から抜き、白鷹が手で扱き始める。
「俺にかけるなよ? この後、デートなんだわ」
「い、ぁ……あぁっ。やっ、……」
腰から脳天までを突き抜ける感覚があって、俺は白鷹の手の中で果ててしまった。
先端から溢れ出した体液を、白鷹が片手で受け止める。
「結構少ねえな。昨日も大和とヤッたか?」
「はぁ、あ……。あ……」
呆然とする俺に向かって白鷹が笑い、掌に付いた精液を舐め上げる。それは酷く淫らな光景だった。
「俺だったら、大和と違って何時間でも……チカを満足させてやれるけどな」
「………」
「試してみるか?」
俺は唇を噛み、涙に濡れた目で白鷹を見つめた。
ここで白鷹の言いなりになれば、確実に大和を裏切ることになる。だけどもしそれを拒否すれば、俺達の――大和の夢が、確実に遠ざかってしまうんだ。
どちらも選ぶことが出来ない残酷な二択の中、俺は大和の笑顔を頭に思い描いた。
誰よりも俺を好きでいてくれる、あの屈託のない素直な笑顔。底抜けに明るい笑い声。俺を一生守ると誓ってくれた、真剣な眼差し。
「立てるか。壁に手付いて、ケツこっちに向けろ」
「………」
少しずつ、俺の中の大和が霞んで行く――。
「う……。あ、……」
白鷹の屹立したモノが俺のそこにあてがわれ、無理矢理に中へと入ってくる。鋭い痛みがその部分から背筋を走り、俺は歯を食いしばってきつく目を閉じた。
「……く、ぅ……。んぅ、う」
「チカ。たぶん痛てえけど、我慢しろよ」
「えっ……あ、あぁっ!」
俺の腰をしっかりと押さえ付けた白鷹が、自身のそれを強引にねじ込んできた。体中が張り裂けてしまいそうな激痛に、額からどっと汗が噴き出してくる。
「……はあ。慣らしてねえけど、やれば出来るモンだな」
「い……、痛、い……白鷹。抜い、て……」
「すぐ良くなる」
痛みと恐怖、そして、それを上回るほどの屈辱。全身が震え、汗と涙がぼたぼたと床へ落ちてゆく。
俺は鼻を啜って嗚咽を漏らし、頭の中にちらつく大和の笑顔から必死で目を背けた。
「すげえな、宇宙空間でヤッてるみてえじゃん。……もっと締めろよ、抜けちまうぞ」
「あっ……あぁっ! やっ、ぁ……!」
土星が描かれた壁にしがみつく俺の背後で、白鷹が何度も腰を打ち付けてくる。突かれる度に背中が反り、出したくもない声が俺の喉から飛び出す。白鷹のそれはまるで本人とは別の生き物のように、俺の中で激しく暴れ、熱く猛っていた。
「コート邪魔だな。……ああ、手縛ってるから脱げねえのか。上は厚着してんのに下は全裸とか、すげえエロい」
「は、あ……あぁ、あっ!」
「チカちゃん、感じてんの? 出したばっかなのによ、前、また硬くなってきてんじゃん」
もう、立っているのもやっとの状態だ。
「あ、んっ……! ん、や、あぁっ……!」
「彼氏がいながら、何て声出してんだか。とんだビッチだな、お前」
「う、あ……。ああぁっ……」
何とでも言え。それで、さっさと終わらせろ。
「チカのイキ顔、すげえ可愛い。大和より俺の方が相性いいんじゃねえの。……今度3Pするか? チカ、失神するかもな」
一秒、一秒……拷問のような時間が過ぎて行く。俺は壁にかかった時計の秒針を見つめながら、少しでも早く白鷹が果てるようにと祈り続けた。
「あぁっ、あ、……」
それから、どれくらいの時間が過ぎただろう。
「……そろそろイきそうだわ。チカ、中に出すけど構わねえよな……」
「やっ、やだ……。出すなっ、……あ」
体の奥深くに白鷹の熱が注ぎ込まれる。はっきりとした感覚はないが、白鷹が腰を震わせる度に体内を支配されるような気がして、どうしようもなく悲しくなった。
ズルリとそれが引き抜かれ、溢れた体液が俺の太腿を伝って滑り落ちてゆく。
「は、あ……」
俺は膝から崩れるようにして床へ倒れ、荒い呼吸を繰り返しながら涙を拭った。
――大和としかしたことないのに。大和にしか、許してないのに。
取り返しのつかないことをしてしまった。
「っ……、はぁ……」
だけど、これで少しでも大和の役に立てたのなら。少しでも、大和の夢が近付くなら。
「う……」
俺の胸の痛みなんて、無視してしまえばいい。
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