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「政迩」  唾液の糸を引きながら、大和の舌がそっと抜かれる。 「ん……」 「俺今日、マジで寝ないでいいって思ってるから」 「……馬鹿。俺はどうすんだ」 「出勤して、休憩室で寝てろよ」 「店長の言う台詞か?」  俺達は至近距離で顔を見合わせながら同時に噴き出し、再び唇を重ね合った。 「んっ、ぅ……」  激しく舌を絡ませながら、大和の手が俺のシャツのボタンを外してゆく。冷たくなった肌に直接触れられ、俺も徹夜を覚悟した。今大和と愛し合えるなら、明日のコンディションなんか気にしなくていい。一日頭痛に悩まされたって構わない。 「は、ぁ……。あ、……」 「……っと」  思い出したかのように大和が俺の肌から顔を上げ、そのまま身を起こしてソファを降りた。 「なに、どうしたんだよ……」 「このソファはアレだからさ。ベッド行こう、政迩。ちなみにあのベッドは四年前に買ったやつだから、俺達しか使ってねえよ」 「いいよそんなの、俺気にしねえから……。焦らすなってば、もう……」 「俺の気が済まねえの。抱っこしてやるから、来い」  渋々、広げられた大和の腕の中へ身を投じる。抱き上げられ、寝室まで運ばれている間も、俺は大和の首に腕を絡めて何度も頬にキスをした。  くすぐったそうに笑いながら、大和が言う。 「やっぱお姫様かもな、政迩は。チカ姫」 「違げえよ。むしろ大和が俺のお姫様」  優しくベッドに下ろされ、大和にジーンズを脱がされる。  剥き出しになった俺の膝に口付けてから、大和が薄く笑って言った。 「じゃあ、政迩は俺の女王様だ」 「……んっ」  立てた俺の膝にキスを繰り返し、大和の手が俺の下着を下ろしてゆく。既に恥ずかしいほど反応している俺のそれは今すぐ大和に愛してほしくて、切なげに脈打っていた。 「ふ、あっ……」  膝から股に、そして内股に、大和の唇と舌がゆっくりと這う。我慢できなくて大和の黒髪に指を絡め、俺は甘ったるい声で懇願した。 「大和、早く、……そこ」 「どこ?」 「やっ、あ……大和っ」  構わず、大和は俺の内股を愛撫し続ける。敏感なところのすぐ近くを舐められて、無意識の内にベッドから腰が浮いた。 「大和っ、……や、……意地悪すんなっ……」 「言わなきゃ駄目」 「や、やだっ……」  俺は抱き寄せた枕に顔を埋めた。 「女王様、ちゃんと命令は口に出さねえと」 「うぁ、あ……やっ、もう……」  焦れったくて、恥ずかしくて、……だけどそれ以上に触れて欲しくて。俺は枕に顔を押し付けたまま、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で大和に訴えた。 「なに?」 「……、……」 「うん」 「……して」 「いいよ」  枕に埋めた顔は熱く、今にも火を噴きそうになっている。 「――あっ、あぁっ! や、ぁっ!」  だけど、やっとのことで触れてくれた大和の舌はそれ以上に熱を持っていた。根元から何度も舐められ、先端を啄ばまれ、脈打つ俺のそれが溶かされてしまいそうだ。 「う、あっ……あぁ……あ、んっ……」  大和の口の中、その熱い舌が俺のそれに絡み付いてくる。大和の唇の隙間から漏れる濡れた音に、俺の耳まで火照り出した。  体中がざわめき立ち、もう、何も考えられなくなる。 「んっ、あぁっ……!」 「……っ、はぁ。政迩、今日はやけに敏感だな。いつもと我慢汁の量が違う」 「そ、そんなことねぇっ……」  俺の先端を親指の腹でくすぐり、大和が含み笑いをした。 「可愛くて堪んねえ。もっと悦ばせたくなる」 「大和っ……あ」  指での愛撫を続けながら、大和の舌が再びそれの裏側を舐め上げる。それと同時に大和の指が俺の入口を押し広げ、ゆっくりと中に入ってくる。 「あ、あっ……あ」  下半身にびりびりと電流が走り、俺はこれ以上ないほど大きく股を開いて大和の髪を掴み、叫んだ。 「ああっ――やっ、大和……イきそ……なる、からっ!」  それを聞いた大和の手が、くすぐる愛撫から上下に扱く動きへと移行する。同時に俺の中に収まっていた指が前後に激しく出入りし、あまりの急な快楽に危うく意識が遠退きかけた。 「や、大和っ……俺、イきそっ……」 「いいよイッても。何回でもイかしてやる」 「あっ、あ……!」  腰の内側から何かがせり上がって来るような感覚があって、堪え切れず、俺は大和の手の中で果てた。 「はぁっ、あ……。はぁ……」  自分の掌と俺の内股に付着した体液を見て、大和が苦笑する。 「バレンタインに俺が言ったこと覚えてるか? ホワイトチョコソースみてえ、チカの白い肌にすげえ似合う」 「ば、馬鹿言うな……あっ」 「舐めてやるって約束したもんな」  内股に口付けられ、ゆっくりとそれを舐められる。くすぐったいし、恥ずかしいのに、心地好い。 「な、舐めるなって……そんなの」 「飲むのと同じだろ」 「あ、あっ……、や、大和……。あ、……っん」  俺は目を閉じて震えながら、大和の舌の動きに合わせて腰をくねらせた。  丹念にそこを舐め回してから、大和が身を起こして口元を拭う。 「来年のバレンタインには、本物のチョコソースでやらねえとな」 「……大和、俺にチョコ作ってくれんの?」 「ああでも、チカって手作り系が嫌いなんだっけ」  俺は力無く笑って首を振った。 「俺は毎日、大和の手料理食ってんだぞ。大和が作る物なら、何でも好き」 「じゃあ期待してていい。今から研究して、来年はパティシエ級のすげえチョコ作ってやる」 「俺も大和に何か作りたい」 「チカはホワイトデー担当だな。飴作ってくれ」 「飴なんて人の手で作れるのか?」 「作れるよ。俺、小学校の頃に作ったことあるもん」  そうなのか、と俺は天井を仰いだ。  言ったところで、どうせ俺には作れない。来年ならまだしも、今月のホワイトデーにはとても間に合いそうにない。 「ん。……まあでも、先のことなんて分からないよな」 「分からねえって、何が?」 「大和には秘密」 「なんだよ、じゃあ言うなよ」  呆れて笑いながら、大和が俺の上に身体を重ねた。俺の唇に弾くようなキスを何度も繰り返し、愛おしむように頬を撫でられる。そうされることで俺もまた昂ってきて、大和の背中に腕を回し、その逞しい体を強く抱きしめた。 「チカ、帰って来たら居ねえんだもん。どこ行ってたんだよ?」 「ちょっとな。……そう言えば、今日は……いつもより帰って来るの、早かったんだな」 「ん。だってチカが心配だったし、最近ずっと寂しい思いさせてるって分かったから」 「毎晩……白鷹さんと、何話してんの?」  俺が問うと、大和が耳元に唇を寄せてきた。 「言ったろ。仕事の話」 「本当に? 売上がどうとか、セールがどうとかって……延々と喋ってんのか?」 「それもそうだけど。もっと、もっと……大事な話。俺とチカの、な」 「え……」 「まだまだ先のことだけど……店の名前、チカが決めていいからな。それからフライヤーとポスターのデザイン、マスコットキャラ的な物も考えといてくれよ」 「っ……」  大和が俺の頬を両手で挟み、俺の目を覗き込みながら笑う。 「買い付けも二人で行くんだぞ。なるべく条件の良いテナント探して、メーカーと交渉して、アルバイト募集して、そうなったら大忙しだ」 「大和……」 「同時に、お前の夢も叶う。好きなだけ絵描いていいぞ。もし今からそういう学校通いたかったら、白鷹くんに言って休み多く貰えるようにしような」 「大和っ……!」  俺は両手両足で大和にしがみつき、涙に濡れた頬を大和の頬へ押し付けた。 「本当はチカを驚かせたくて、目処が立つまで秘密にしとくつもりだったんだ。まだ殆ど何も決まってねえから、途中で白紙になる可能性だって無いわけじゃない。そうなったらみっともねえだろ? それに、資金もまだ充分じゃねえし……」 「大丈夫。必ず成功する……。白鷹さんが言ってた。『金より誠意を見せろ』って。白鷹さん、大和のために今までずっと――」 「え、なに? あの人チカに何か言ってたのか?」 「……後で話す。今は俺に集中してくれ、大和……」 「ん」  口付け合い、深く深く舌を絡ませる。  俺は世界一の愚か者で、同時に世界一の幸せ者だ。

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