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 思い悩む必要なんて少しもなかった。白鷹はこんなにも俺達のことを想ってくれて、大和はこんなにも俺を愛してくれているというのに。これ以上、何を求めるというのか。  今の俺が大和に求めるもの――それは、ただ一つ。 「ん……ん、ぅ……大和。俺もう、我慢できねっ……」 「俺も。ちょっと待ってな、下脱がねえと」  大和が一旦俺から離れ、自分のベルトを緩める。それすら待ち切れなくて俺は自分も身を起し、大和のワークパンツに両手をかけた。 「がっついてるなぁ、嬉しいけど」  無理矢理引っ張ってパンツを脱がし、大和の下着を一気に擦り下ろす。今の俺は多分、初めてセックスした時の大和みたいに発情しているんだろう。 「大和、たまには俺が攻めたっていいだろ」 「えっ……。ま、マジで? 無理だよ俺、一度もウシロ使ったことねえもん」 「じゃあ……付き合ってた時は、大和が白鷹さんを抱いてたってことなのか?」  実は、初めからすごく気になっていた。本当はもっと早くに聞きたかったけど、もたもたしているうちにそれどころじゃなくなってしまったから。 「いや……」  大和が頬をかいて、決まり悪そうに俺から視線を逸らす。 「俺ら、セックスは挿入しないって感じだったから。お互いにタチだったし、……だからヌキ合うだけっていうか」 「生々しいな」 「だ、だから俺はさ、厳密に言えばチカが初めての相手なんだよ。童貞捧げた大事な相手」 「……まぁ、俺も大和が初めてだけどさ」  少しだけ赤くなった頬を擦り、俺は大和との初めての夜のことを思い出した。  真剣な顔で一生懸命俺の中に入ろうとしている大和が健気で愛しくて、今思えば随分と無茶なセックスだったけれど……痛みよりも俺は、幸せを感じていたんだ。 「……大和、あの時さ。俺のこと大事にするって、何度も言ってくれたよな」 「その割には毎日ヤッてたけどな。チカがうんざりしてるの本当は気付いてたけど、俺も若かったっていうか」  俺はくすくす笑いながら大和をベッドに寝かせ、その上に跨って大和のそれを握りしめた。 「懐かしいな。『俺の股間の大和砲が』とか、意味不明なことよく言ってたよな」 「そ、それは忘れてくれ……」 「今でも現役なんだろ?」  手の中の『大和砲』を上下に擦り、元々屹立していたそれを更に硬くさせる。大和は恍惚とした表情を浮かべながらも、少しだけ恥ずかしそうだ。 「今日は俺が攻める日」 「だ、だから後ろは無理だって……」 「そっちの意味じゃねえよ」  俺は上を向いた大和のそれを自分の入口にあて、腰を下ろしていった。「ん、……」じわじわと入ってくる大和の感触に眉根を寄せ、唇を噛む。 「ん、ん……ぅ」 「チカ無理すんな。ゆっくりでいい」  大和の胸板に手を付き、言われた通りにゆっくりと腰を下ろす。半分ほど入ったところで大和が俺の腰を支え、下からグッと押し上げてくれた。たったそれだけのことで、大和の男らしさを魅せつけられた気分になる。 「あっ、……」  奥まで到達した感覚があって、俺は大和の上にべったりと座り込む体勢になった。  二人の息遣いに混じって、自分の鼓動が聞こえるようだ。 「ん、ぅ……」  攻めると言っておきながら、俺には既に余裕がない。俺の中に収まった大和が温かくて心地好くて、出し入れするのが勿体なかった。ずっとずっと、俺の中に閉じ込めておきたい。 「チカ、すげえ綺麗だ」 「はぁ、っあ、……」  大きく開いた口から吐息が漏れ、固く閉じた瞼からは音もなく涙が零れてゆく。  大和が好き過ぎて、幸せ過ぎて、その気持ちを吐き出す術が分からなくて、胸の中がどうにかなってしまいそうだった。 「大丈夫か。動けるか」 「も……少し、このまま」 「感じてんのか」 「ん……。や、大和は……?」 「俺も気持ちいいよ。チカの中、すげえ温かい」 「大和……」  今この瞬間、大和と俺は同じことを思っている。互いの体に愛を感じ、互いの心を理解し合い、互いを激しく求め合っている。  大和とじゃなきゃこんな気持ちにならない。  俺はもう、大和しか愛せないんだ――。 「ごめん大和……俺が動かねえと駄目なのに、もっと大和の、……中で感じてたくて」 「いいよ、気が済むまでじっとしてろ」 「……夜が明けるかも」 「そ、それは勘弁」  大和が俺の下腹部を支えて、自分の腰を浮かせた。 「よっ、と」 「あっ……!」  腰が浮いた分、更に大和のそれが俺の中に侵入してきたみたいだった。既に根元まで入っていたはずなのに、もっと奥の、……奥の奥まで。 「ん、あ、……あ……」 「どうだ、もうこれ以上は進めねえぞ」 「……気持ち、いい」  心の底から出た俺の言葉を聞いて、大和が「うー」と変な声で呻った。 「ちょ、チカもう俺そろそろ限界。動いていいか、下からガンガン突いてやりてえ」 「で、でももう少しだけ……」 「駄目」 「……あっ!」  大和が俺の腰に手を添えたまま、自身の腰を上下し始める。俺は大和の胸にもう一度両手をつき、慌てて自分の体を支えた。 「や、まと……急すぎっ、ぃ……」 「好きなトコに当たるだろ。チカ、すげえ気持ち良さそうな顔になってる」 「あ、……っん……あっ、あ、あぁっ……」  ふいに大和が俺の両手を取り、指を絡ませてきた。きつく繋がり合う俺と大和の両手。下では、もっと激しく繋がり合っている。  俺は大和と指を絡ませながら背中を反らせ、自分でも腰を上下させた。 「あぁっ、あ……や、大和っ……あっ!」 「いい眺めだな。マジで綺麗だよ、チカ」  感嘆の溜息を洩らした大和が、俺を見上げて目を細めている。 「好きだよ、政迩」 「……お、俺もっ……俺も好き、大和っ……!」  体が上下に揺れるからか。それとも、俺の視界が潤んでいるからだろうか――大和も、俺を見つめて泣いているように見えた。  どうしようもなく心地好い切なさに、涙が止まらない。 「う、あ……あぁ、大和、大和っ……」 「チカ、……」 「――あっ」  半身を起こした大和が俺を抱きしめ、そのまま俺の体をベッドへ倒した。  鼻先が触れるほどの至近距離で俺を見つめながら、大和が優しく囁く。 「一生大事にする。お前のこと、何があっても死ぬまで守り続けるから」 「……俺も、大和のことっ……一生、……」 「政迩、愛してるよ」 「う……」  先に言われてしまって、俺は両腕で目元と口元を隠しながら嗚咽を漏らした。 「そ、そんなに泣くなって」 「だ、って……。すげえ、嬉し、から……」 「顔見せて。チカも俺の顔見ててくれよ」 「無理。俺今すげえヤバい顔になってる……」  強引に腕を除けられ、俺は涙に濡れた酷い顔を大和の前にさらけ出した。 「大丈夫。可愛い」 「あ……」  頬に大和の指が触れた。  丁寧に涙を拭われ、綺麗になった頬に優しく口付けられる。 「ずっと一緒にいような」 「……うん」 「約束」  俺達は目を閉じ、そっと唇を重ね合わせた。キスなんてもう何千回としてきたはずなのに、どうしてこんなに新鮮な気持ちになるんだろう。  触れるだけの、ささやかな誓いのキス。……それは、今までしてきたどんなキスよりも俺を震わせ、ときめかせ、とろけさせた。 「………」  唇が離れた後も、大和は俺の顔を間近に見つめながら優しく微笑んでくれている。俺も出来るだけ目を開いて、大和の顔を見つめ返した。 「あ、……」  そのまま、腰を動かされる。  互いの視線と指とをしっかり絡ませ合いながら、俺達は今まで体験したことのない、更なる高みへと一緒に駆け上がって行った。 「んん、あっ、……あ。大和、気持ちいい……」 「俺も……」 「ふっ、あ……あっ。あぁっ」  体が宙に浮かんで行く。ベッドも、枕も、部屋の中の全てが――消えて行く。  もう今の俺には、大和の体温以外に何も感じられない。まるで無重力に包まれた優しい世界の中、俺と大和だけが互いを引き寄せ合っているみたいだ。 「大和っ、あ……もう、俺……。俺っ……」 「……いいよ、一緒にいこ」 「あぁっ……! あ、あっ……!」 「政迩っ、……」 「ああぁっ……!」  空は白み始めている。  大和の引力に導かれるまま、俺は素直に、体の奥底にある熱い欲望を解放させた。

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