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 多分俺は、今日という日を忘れない。四年目にして初めて、大和と強い絆で結ばれた――今夜の出来事、その全てを。 「はぁっ、……は、ぁ……」 「……はぁ。お、お疲れ……政迩」  俺の体から身を起こした大和が、だるそうに手を伸ばして枕元のティッシュケースを掴む。俺はその下で仰向けに寝たまま息を弾ませ、そんな大和の動きをじっと見つめていた。 「平気か? どっか体痛てえとか、ない?」 「……平気」  自身のそれと俺の後ろを丁寧に拭いた後で、大和が俺の隣に寝転がった。 「はあ……。すげえ良かった」 「……ん」 「政迩、触らないでイッたのって初めてだろ。それほど俺のが良かったってことだよな。それって、男としてすげえ嬉しい」 「……うん」  もう少し余韻に浸っていたいのに、大和のお喋りは止まらない。 「四年も付き合ってきたけど、今日初めて政迩と……何て言うか、文字通り『繋がれた』って感じがした。自分でも恥ずかしいこと言ってるとは思うんだけどさ」 「………」 「……チカ、眠い?」 「ううん。……俺も丁度、同じこと思ってたから」 「そうかぁ……」  大和が笑って、俺の頭を撫でてくれた。 「これからはさ、お互い何でも言い合っていこうな。例えちょっとしたことでも、二度とチカを嫌な気持ちにさせたくねえから。俺鈍いから、そういう時はどんどん指摘してくれ」  俺は少しだけ唇を尖らせ、大和に言った。 「……じゃあこれからは、客とか他店の女とかに絡んでいくなよ」 「えっ、なに? もしかして実は嫉妬してた?」  大和の顔が嬉しそうに崩れてゆくのを見て、「やっぱり言わなければ良かった」と俺は少し後悔した。 「なんだよ、そんなの言ってくれればすぐに改めたのにさ。ほんと、チカちゃんは素直じゃねえな」 「うるさい。じゃあ明日から改めろよ。大和はもう客に絡むの禁止な。来月のホワイトデーも一切返さなくていい。隣の店の差し入れも断れ。話しかけられたら無視しろ」 「む、無茶言うな。そんなの俺、ただの嫌な奴じゃん」 「……っていうくらい、俺は嫉妬してんだよ」  恥ずかしかったが、長年思っていたことを言えてすっきりした。  大和が嬉しそうに笑って、俺の頬を軽くつねる。 「……俺さ。政迩と出会えて、本当に幸せ」  俺の大好きな笑顔。俺が守らなきゃならない笑顔。  嬉しくて、胸が一杯になる――。 「俺も幸せ。あの日の放課後、傘忘れて、……本当に良かった」 「政迩」 「……ん?」 「顔真っ赤だぞ」 「っ……。う、うるせえ……」  思わず大和に背を向けて、抱えた枕に顔を埋めた。本当に大和という男は、いいところで雰囲気をぶち壊す。……それはお互い様か。 「悪い悪い。政迩がそういうこと言うのって、珍しいからさ」  後ろから大和に抱きしめられ、俺はむくれながら言った。 「俺だって言う時は言う」 「うん、うん。そうだよな。これからはもっと言ってくれて構わねえんだぜ」 「嫌だね」 「もちろん、意地っ張りなチカちゃんも可愛いけど」 「うるせえってば……」 「こっち向けって。キスしてやる」 「………」  大和がキスしてくれるなら。 「お、向いた」  大和が、喜んでくれるなら。 「愛してるよ、政迩」 「俺も……」  ――これからは俺も、少しは素直な男になってみようか。

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