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第2話
あ、もしかして……。
城島の視線から逃げるように槙野は黒板の前の教師が使う机に向かった。
引き出しを開けてみると実験に使うためだろう徳用のマッチ箱が入っていた。
「あったよ火」
「え?ウソ」
「ホント。マッチだけど」
「おう!でかした槙野」
あ、名前呼んだ。
いや名前ぐらい呼ぶだろ。
なんだよオレ。
槙野の差し出したマッチ箱を手にすると城島は手慣れた様子でタバコに火をつけ美味しそうに煙を吐き出した。
その姿は妙に様になっていた。
「ん~ウマイ。吸えないと思ってたのが吸えたんでもっとウマイ」
「タバコってウマイの?」
「ああ。オマエも吸ってみる?」
「オレは…未成年だし」
「オレもだよ。あのな、マッチとライターだとタバコの味って変わるんだぜ。マッチだと…」
その時、ピーピーピーと耳障りな警告音が理科室内に響き渡った。
「え?なんだこの音」
「あ、城島、あれ!」
槙野は天井につけられた火災報知器を指さした。
「あ、ヤベエ」
城島は上履きの底でタバコの火を消すと窓をあけ、吸い殻を外に捨てた。
そして窓枠に足をかけた。
「逃げるぞ槙野」
「え?」
「先生来るだろ」
「え?え?」
「急げ」
言うと城島の姿が見えなくなった。
槙野が窓の外をのぞきこむと城島が手招きした。
「槙野早く」
城島の後に続こうとして本と弁当箱とカバンを机の上に置きっぱなしにしている事に槙野は気がついた。
「何してる槙野。それ、こっち先に投げろ」
荷物を投げると槙野は窓枠に足を掛けた。
幸い理科室は一階だったためそう高さがあるわけではないが乗り越えるのは一苦労だった。
「急げ槙野」
警告音は続いているし、廊下からパタパタと人の走る音が近づいてくる。
「来い!槙野」
城島に向かって槙野は思い切って飛んだ。
飛べた。
「よし。逃げるぞ」
槙野の荷物を抱えたまま城島が走り出した。
「急げ槙野。理科室から見えない所に」
猛スピードで走り出す城島の後を槙野も必死で追いかけた。
「コラー。誰だ~」
校舎の影でハアハアと息を吐きながら止まったところで声が聞こえた。
「あの声、進路指導の田代だ。ヤベエ~危機一髪~」
日頃運動をしない槙野は息が上がってしゃべることができなかった。
「おい、大丈夫か」
「…だ…大丈夫じゃない……」
「情けねえなあ。これっくらいで…」
プックククク。
槙野の顔を見て城島が急に笑い始めた。
「な、なんだよ」
「オマエの第三の目が開くのはいつだろうな?」
「は?」
何を訳のわからないことを言ってるんだと槙野が思った瞬間、城島が槙野の額の真ん中を中指でツンツンとつついた。
「え?」
至近距離で見た城島の目はイタズラをしかける子供のように微笑んでいた。
♪キーンコーンカーンコーン
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り始めた。
「おっ、教室帰ろうぜ。ほれ、荷物」
城島は槙野に荷物を渡すと歩き出した。
え?え?ツンツンって何?え~??
第三の目うんぬんとツンツンの意味を槙野が理解したのは午後の授業が始まってからの事だった。
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