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第3話

「城島のやつ……ったく……。あの頃はガキだった。何が第三の目だ」 槙野は額を指でこすった。 そしてポケットからタバコを取り出し一本くわえるとライターをこすった。 ――点かない。 親指にギュッと力を入れてこする。 小さな火花がチッチッと散った。 チッチッ。チッチッ。 点かない。 ライターを逆さにしてからまたこする。 点かない。 槙野はライターをこすり続けた。 ――そうだな。 あの時の城島のライターが放つ小さな火花がオレの目の中で弾けて焼きついて、それでこんな風になってしまったんだ。 ただそれだけだ。 あいつがイタズラを仕掛けて、それであんな風にオレを見て笑ったから。だから。 叶わないから願い続けるんだ。 こんな想いはただの感傷だ。 やめにしよう。 もうやめにしよう。 オレはもう城島を忘れよ……。 その時だった。 ドーンと玄関のドアが乱暴に開く音がして、背中で声がした。 「オマエふざけんな。帰るぞ」 まさか……。 まさか……。 ウソだ……。 この声は……。 「おい、槙野」 槙野はゆっくりと振り返った。 城島だった。 あんなに待って夢にまで見た本物の城島がそこに立っている。 「城島」 三年ぶりに会う城島はくたびれたスーツ姿で不機嫌そうな顔をして槙野を見つめている。 来てくれた? 来てくれた! 城島がオレを探しに来てくれた。 「ったく、世話かけんな。外回りって言って抜けて来てるんだ。時間がねえんだから。荷物まとめろ。帰るぞ」 「え?」 「えじゃないよ。みんな心配してんだ。親にも音信不通ってどういうことだ。大きいもんいいから。って、ほとんどなんもねえじゃねえかこの部屋。とりあえず一旦オマエの実家帰るぞ」 歓喜から失望へ、槙野の気持ちは急降下した。 「……帰らない。オレは何もかも捨てた。戻る橋を焼いたんだ」 フウ~と城島はため息をついた。 「何カッコつけてんだよ。探したんだぞ」 槙野は城島からの視線を避けるように背を向けると手にしていたタバコをくわえライターをこすった。 チッチッ。 チッチッ。 ボウッ。 小さな火花が散ったかと思うと最後のガスを燃やそうとでもするようにボウっと小さな小さな火がついた。 だがそれはタバコに火を点ける間もなく、消えた。 ――。 槙野は唇を噛みしめた。 「城島になんか出会わなければ良かった」 口からそんな言葉がこぼれ出てしまった。

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