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第4話

「城島になんか出会わなければ良かった」 口からそんな言葉がこぼれ出てしまった。 「……そんな事言うなよ。こんなオレでも傷つくぜ」 「何が第三の目だ」 「何?ああ。あれか」 城島が微笑んだ気配を槙野は背中で感じた。 「オマエが理科室でグーグー寝てるからちょっとイタズラしただけだろ」 「マジックで額にでっかいリアルな目玉を描くとか。それも油性で」 「おもしろかったじゃねえか。 『あ~槙野くん、手塚漫画に『三つ目がとおる』という作品があるのを知ってるかい。主人公はね、額に第三の目があるんだよ。うん。でもね、普段は大きなバンソウコウを貼っているんだ。君の場合はバンソウコウじゃあムリだろうがね。はい、では教科書115ページから』 って数学の羽多野のあのスカし方良かったよな。 クラス中きょとんとして、その後オマエの顔見てみんな爆笑してたもんな」 「モノマネ長いし似てないよ。よく羽多野のセリフまで覚えてるな。結局油性マジックじゃ落ちなくてタオル巻くしかなかったじゃないか」 「オマエ、一時期三つ目とか、とおるとか、ラーメン店主、ヘイ!大将とんこつ一丁とか呼ばれてたもんな。ククク」 城島の楽しそうな笑い声が響いた。 そう。あの頃いつも下らないイタズラを仕掛けてきて、こんな風にホントに楽しそうに笑うんだ。 「おもにオマエがつけたんだろヘンなあだ名」 「まあでも、三つ目事件でオマエの存在感がグッと増しただろ」 城島の言う通りだった。 城島がうまい事ツッコミを入れてあだ名にしてくれた。 あだ名ができると話かけられる事が多くなり、何かにつけ構ってくる城島につられて槙野自身も話すようになり、クラスにも馴染み、そして気がつけば城島とつるんで遊ぶようになった。 「全然楽しくない。オレの唯一の憩いの場所だった理科室も使わない時はカギかけられるようになっちゃったしな」 「ああ。あれ、結局オレたちがやったってバレなかったよな」 「オレたちじゃないよ城島。オマエだよ」 「まあまあ。そんな昔の事。許せよ三つ目くん」 城島は槙野の肩をポンポンと叩いた。 「さわんなよ」 「……それにしてもまさか、ここにいるとは思わなかった」 城島は懐かしそうな顔をして部屋の中を見渡した。 「今見るとせまいな。よくこんな所に二人で住んでたよな」 「大事な場所だ。城島、オマエにとっては思い出したくもない所でもな」 「オレにとっても思い出の場所だよ槙野。オマエと大学時代に暮らした部屋だ。暑いな」 城島はカーテンを開き窓を開けた。 締め切ってムッとしていた室内に風が吹きこんだ。 「だったら。オレがここにいる意味、わかるだろ。オマエも橋を焼く気がないなら帰ってくれ」 ハア~と城島はため息をついた。 「橋を焼くってなんだよ。オレには嫁と、来年の春に生まれる子どもがいる。それを捨てろとでも言うのか?」 「そうだよ」 「槙野」 「それができないなら帰ってくれ。オレのことは今この瞬間から忘れてくれ」 フウーと今度は城島は大きく息を吐いた。 「槙野、今までハッキリ言わなかったオレが悪かった。わかってくれると思ったんだ。オレは…」 「やめろ」 槙野が城島の言葉を遮った。 「言わなくていい。ただ、ここから去ってくれ」 「だからオレは…」 「やめろ」 聞きたくないとでいうように槙野は頭を横に振った。 「聞け槙野。オレは、オマエの想いには応えられない。オマエの望むような関係には、なれない」 噛んで含ませるように城島は言った。 「じゃあなんで…」 絞り出すような声で槙野は言った。 「なんであの時、オレを抱いたんだ」

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