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第5話

高校を卒業し、それぞれ大学に進んだ城島と槙野は高校生の頃のように毎日会うことはなくなった。 だが、それでも月に何度かは会い、遊び続けていた。 城島には隠していたがその頃の槙野の生活は荒れに荒れていた。 ネットを通して知り合った不特定多数の人間と毎日のように関係を結んだ。 親友への想い。セクシュアリティーへの迷い。若さゆえの好奇心。 若くルックスも良かった槙野が相手に困ることはなかった。 時には危ない目にあったりもしたが、なんとかギリギリで切り抜けていた。 大学生活も二年を過ぎた頃、城島が槙野の部屋に転がりこんできた。 家庭の事情で生活費を自身で稼がなくてはならずバイト漬けだった城島が家賃滞納でアパートを追い出されたのだ。 見かねた槙野はルームシェアを持ちかけた。 槙野の生活は一変した。 夜遊びも止め、真面目な大学生活を送るようになった。 とはいえバイトバイトの城島との生活はほとんどすれ違いだったが槙野は幸せだった。 大学を卒業し就職するまでの短い期間だとしても城島が女と付き合っていようとも構わなかった。 帰ってくるのはこの部屋だったから。 実るはずのない想いだとわかっていたから。 その日、城島はゼミの飲み会でいなかった。 終電の時間をすぎても帰ってこなかったので、いつものように彼女の部屋に泊まるのだと槙野は思った。 槙野は時折隠れてそうしていたように、城島のカーディガンのニオイを嗅ぎ、顔をこすりつけ、自慰にふけっていた。 「城島…城島…ハッ…ハッ…城島…」 背徳感と快感と好きな人の名を呼べる喜びと。 「んっんっ…はあはあ…城島っ…城島っ…」 射精して肩で息をしながら顔を上げたら、そこにいないはずの城島と目があった。 心臓が凍った。 「城島っ……なんで…」 「槙野、オマエ……」 バレた。終わった。 城島の内から完全にはじき出される。 槙野の頬を涙がポタポタと伝った。 終わった。もう終わった。 「ごめん。ごめん。ごめん」 槙野のカラダが震えた。涙が止まらない。 合わせる顔がなくて、頭を抱えこんだ。 「槙野。槙野。槙野って」 城島に腕をつかんでカラダを起こされた。 涙が止まらない。カラダの震えがとまらない。 鼻水が止まらない。 城島は服の袖で槙野の涙と鼻水をぬぐった。 「オマエ……そんなにオレのこと好きか」 「好きじゃない。オマエの事なんて全然好きじゃない」 城島が熱い目で槙野を見つめていた。 「城島?」 次の瞬間、槙野の口が塞がれた。 その後に起こった事を槙野は細かく思い出すことができない。 まるで嵐にでも巻きこまれたようなそして長い長い夢を見ているような気分だった。    城島は槙野を抱いた。 二人、激しく抱き合った。 ただそれはその時、一度きりの事だった。 城島はまるで何もなかったかのように、翌日からはいつも通りだった。 槙野もまたその事に触れなかった。 そうしてまたすれ違いの生活を続けた。 その後大学四年になると城島は徐々に部屋に帰って来なくなり、付き合っていた彼女と同棲をはじめた。 槙野は一人、城島のニオイの残るこの部屋に取り残された。

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