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第7話
そして、槙野は少年に出会った。
「オレ、未成年じゃないんですけど」
「じゃあ身分証をお願いできますか」
カゴいっぱいの酒を買おうとしてレジでモメていた。
今にも泣き出しそうな顔をしているなと思った。
放っておけなくて声をかけ、公園でいっしょに酒を飲んだ。
飲んでも飲んでも槙野は酔わなかった。
少年は不味そうな顔をしてビールを飲んでいた。
「まあ誰にだって泣きたい夜くらいあるよ」
少年にそう声をかけた。
まるで城島みたいだ。
城島ならきっと少年にこんな風に言うだろう。
未成年なのにタバコだって勧めるかもしれない。
そういうところが好きだった。
常識うんぬんではなく、人の気持に寄り添えるヤツだった。
少年とぽつりぽつりと話すうちに城島の事を話していた。
子供ができたと律儀にも電話してきた事を。
涙は出なかった。
城島が結婚した三年前に出し尽くしてしまったのだろう。
気がつけば少年が涙ぐんでいた。
「オレの未来だから」と言う。
少年も報われない恋をしているのだった。
まるで昔の自分を見るようだった。
――少年と寝るべきではなかったのだろう。
そのまま家に帰り、布団をかぶって眠り、いつもの朝を始めるべきだったのだ。
そうすれば戻れたはずだった。
六年間くり返した城島のいない日々に。
多分……きっと……。
少年は初め声を出さなかった。
必死に抑えようとしていた。
親友に抱いた気持ちを止められない。
一番身近にいる相手に好きだとも言えない。
それを恋という。
少年のガチガチの心とカラダをこのひと時、開放してやりたいと槙野は思った。
時間をかけ、カラダを開いた。
必死にあらがおうとしている少年を何度もイカせた。
本当は自分を罰し、汚したいのだろう。
だが耐えきれず声を上げ、快感に震える背中を後ろから突きながら愛おしく思った。
うなじに強く吸いつき、痕をつけた。
これを見れば彼の罪悪感が少しでも薄れるだろうか。
少年と別れ、槙野は暮らしている部屋に戻った。
城島と暮らした部屋を出てから三年間暮らした部屋。
朝起きて家を出て会社に行くまでは、城島から電話をもらうまでは、この部屋は居心地の良い自分の住処だったはずなのに。
今はそのどれもこれもが色を失い霞んで見えた。
そして、槙野は悟った。
ここに、オレの人生に、必要なものは何もない。
城島が忘れられない。
城島が好きだ。
城島が欲しい。
城島だけが欲しい。
心の奥に封じこめていた暴力的なまでの想いがこみ上げた。
会社に電話をし、辞意を告げた。
荷物を処分し、アパートの契約を解消し、使っていた携帯電話を解約した。
親、兄弟、友達、誰とも連絡がつかなくなるがそれでも躊躇はなかった。
橋を焼いた。
何もかも捨てて、いやどうしても捨てられず引き出しの奥にそっとしまっておいた城島との写真一枚だけ持ち、城島と二人暮らした部屋に戻ってきた。
好きなだけ城島を想っていられるこの部屋へ。
数日後、さすがにこのまま一人でここにいたら狂ってしまうかもしれないと、仕事を探し働き始めた。
そして、ひそかに待った。
城島が探しに来てくれるのを。
来てくれた所でどうなるとも思えなかったが。
そこから始めたい、と槙野は思った。
再会した少年に自分の名は城島だとウソをつき、その名で呼ばせた。
そして城島と呼ばれるたびに、城島を想った。
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