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第8話

「ジェットコースター乗りたい人っ!」 「はーいっ!」 「……はぁーい!」 東生の言葉に、真奈美と愛咲が元気よく手を上げる。 「で、お前らは?」 東生が振り返り、静かに離れて立つ僕と樹を見た。 「僕は……」 「……俺も、乗るよ」 遠慮する僕とは対照的に、樹が遠慮がちに片手を上げる。 僕の方など、一切見ずに。 「……」 樹……こういう絶叫ものに弱いって、確か言ってたよね。 なのに乗りたいって。……それ程、僕と一緒になるのが……嫌って事、だよね…… 「おっ。……じゃあ、愛月も乗るだろ?」 「……いいっ、!」 東生の言葉を、強く突っぱねる。 当然みたいなノリが堪らなく嫌で、反発心もあったのかもしれない。 ……だけど、それだけじゃなくて。 このままここに居ても、樹との関係が何も変わらない事に……僕は心底、嫌気が差していた。 集まる視線。 視界に映る三人が、言葉を失ったまま僕を見つめている。 「──あ、えっと……、」 場の空気が一変したのを肌で感じ、感情を喉奥に押し込め、手を強く握りしめる。 「何か……さっき飲んだやつのせいか、気持ち悪くなっちゃってさ。乗ったら多分、吐くから」 やっとの思いで、笑顔を作る。 上手く作れてるのか、自信なんてないけど…… 愛咲が僕に一歩近付いて、心配そうに何か喋りかけてくる。 ──あの時と同じだ。 東生のホモ発言に、全否定した時の……あの空気。 揺れる視界。 息が、苦しい。 足元がグラグラして……立ってられない。 ぐにゃりと歪んだ視界の端に、心配そうな表情を浮かべた樹が、こっちを見ていて……… 「……だから、ゴメン!」 ははっ、と軽く笑った後、堪えきれず踵を返し地面を蹴った。 離れてからやっと…… 狭まっていた視界が開け、呼吸も正常に戻っていく。 だけど、全てが灰色がかって……寒々しい。 煩い程にはしゃぐ、子供の甲高い声。 あちこちで無情に鳴り響き、僕の耳を劈く。 その中を一人、ゆっくりと歩く。この空間に、溶け込めずに。 ……もう、帰りたかった。 樹との仲を望めないなら、こんな所にいたってしょうがない。

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