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第9話

ようやく空いたベンチを見つけ、そこに腰を下ろす。 嫌味な程、雲ひとつない青空。 楽しげな親子三人が、目の前を通り過ぎる。 ふわりと浮かんで揺れる、赤い風船を引き連れながら。 「……」 ……そうだ。 樹をどんなに想っても、ああいう未来が用意されている。 それが、この社会では普通なんだ。 『俺には…お前だけだ』 ──なぁ樹。何であんな事言ったの……? そのせいで、気付いちゃったじゃん…… ベンチの背に身を預け、目を瞑ったまま天を仰ぐ。 瞼の裏が、遮った筈の陽光色に変わる。 温かくて柔らかい、晩秋の日射し。 優しくそっと僕を包んで、切ない程に癒してくれる。 女なら……良かった。 そしたらもう少し、素直になれたかもしれないのに。 ……僕が、女なら…… 「……愛月」 突然の声に、胸が高鳴った。 見なくても解る。 ──この声は、樹だ。 「大丈夫?」 「……ん」 身体を起こし、目を開く。 隣に座る樹に、ドキドキと心臓が高鳴って、煩い。僕自身も、そわそわして落ち着かない。 以前のように、肩が触れ合う程の近い距離ではないけど……樹が追い掛けて来てくれた事が、素直に嬉しかった。 「樹は、いいのか……?」 「……はは。僕が絶叫系苦手なの、知ってるよね」 「まぁ、……うん」 どうしよう。会話が続かない。 今までだったら、こんな事無かったのに…… 「……なぁ、樹」 「ん……?」 熱い。顔が……身体が…… 緊張して、まともに樹の顔が見られない。 「……僕らって、友達……だよな」 何言ってんだよ。 チラッと樹を横目で見てから、慌てて口を開く。 「前みたいじゃなくても、いいからさ。……だから、せめて……避けたりは、すんなよ」 「……」 「樹に避けられんの、……結構、堪える……から」 精一杯の言葉だった。 想いを伝えたい。だけど、伝える訳にはいかない。 だったらもう、……友達のままでいいから。樹の傍にいさせて欲しかった。 近い将来、樹に恋人が出来たとして。 その子と上手くいって、ゴールインしたとして。 それで傷付く事があるとしても。 ──今だけは。 樹と、離れたくない。 「……うん。そうだね」 優しげな口調。 口角を緩く上げ、樹が柔らかな視線を僕にくれる。 「ごめん、愛月(あき)」 「……」 嬉しかった。 正直、東生にはムカついてたけど。……来て良かったと思えたら、誘ってくれた事に初めて感謝した。

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