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第14話

空気が、一瞬で変わる。 和やかだったそれは、メッキが剥がれ落ちるかの如く砕け散り、本来の姿が露わになったのを肌で感じた。 「本当に、嫌だと思ってた?」 「……」 「僕との事」 樹は、答えない。 あの時もそうだった。 困惑したまま、言葉を詰まらせて…… 「……そう、だよね。真奈美に誤解されたくなかっただろうし。 ──ていうか。いつから好きだったんだよ、真奈美の事」 「……」 「なぁ、樹」 「俺には……お前だけ、だったよ」 ──ドクンッ 心臓がひとつ、大きな鼓動を打つ。 その瞬間──僕と樹の間に、懐かしい風が吹いた。 温かくて、擽ったくて…… 心を悪戯に揺さぶる、樹の甘くて爽やかな匂い。 肩が触れ合った瞬間や、不意に肩を抱かれる度に感じた……樹の、心地良い温もり。 何処か寂しげながら……熱っぽい視線。 驚いて顔を上げれば、樹のその視線が絡まり、僕を捕らえて離さない。 「……」 瞬きの仕方なんて、忘れた。 解き方も、わからない。 解きたくない。 ……このまま、もっと見つめ合っていたい。 樹── 好きだよ、樹…… 「……」 何とか、言ってよ。 ……どうしてあと一歩、踏み込んで来てくれないんだ…… 僕の心を揺さぶるだけ揺さぶっておいて、また避ける気かよ…… 『……愛月』 切なく潤む樹の瞳。 その綺麗なスクリーンに、懐かしい思い出が鮮明に映し出される── 「……愛月」 「ん?」 ミーンミンミン…… 夏休み明け──残暑が厳しくて、まだ半袖シャツを着ていた頃。 樹が僕の傍に寄り、耳元でそっと囁く。 「………もし、このクラスに……愛月を好きな男がいたとしたら……どうする?」 「え、何ソレ。共学なのにホモなんていんの?」 純粋に。しかし嫌悪を滲ませた顔で、言い放つ。 『それ、キショいだろ』 「……」 ──違う。 樹はちゃんと……伝えようとしてた。 『俺には…お前だけだ』──樹にとってあの言葉は、樹なりに一歩踏み込んだもので…… なのに僕は、それに気付きもせず……樹の想いを踏みにじってた。 「………」 言わなくちゃ……樹に。 僕の気持ちを、ちゃんと……

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