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ミレニアさん

「ミレニアさんには親の決めた婚約者がいるらしいし、そのうちその人と結婚するんじゃないかな?」 「え? そうなんだ」  相手は獣人らしいよとハインツは窓を拭きながら応えてくれる。そうなんだ……好きでもない人と結婚とか俺は嫌だな。  それにしても獣人、獣人かぁ……街中では完全に顔が獣の獣人と、ミレニアさんのように半分人の姿の半獣人の人がいたんだけど、ミレニアさんは人と獣人のハーフとかだったりするのかな? 俺が何気なくそんな疑問をハインツに問うと「あ~何? カズはその辺の事も知らないの?」と呆れられてしまう。 「だって俺の住んでた所、獣人なんかいなかったし……」 「カズはどんだけ辺境の地から来たの? 今時獣人が暮らしてない町なんてある?」  真顔でハインツに言われてしまったけど、だから世界が違うんだ! と言ってしまいたいがぐっと堪えた。 「確かにミレニアさんは人と獣人のハーフだよ。父方が獣人で母方が人だって聞いてる。ちなみに母親はオーランドルフ家の人間で父親の方が獣人国のお偉いさんなんだって。僕はそっちの国には詳しくないからよく知らないけど」 「そうなんだ、という事はミレニアさんの出身はこの国じゃないって事?」 「うん、そう。だから結婚相手は向こうの国の人らしいよ」  ふぅん、でもだったら何故ミレニアさんはこの国で旦那様の執事なんてやっているのだろう? その獣人の国には両親もいるのだろうに、謎だ。 「あのね、基本的に人と獣人って結婚するもんじゃないんだよ、そもそも文化も習慣も生態も違うし、最近でこそうちの国でも増えてきたけど半獣人って珍しいんだよ」 「え? そうなの?」 「うちの国では人と獣人の結婚を認めてるけど、まだ禁止されてる国も多いって聞くね。まぁ、だからこそうちの国は珍しいはずの半獣人が多いんだけど」  へぇ、そんな感じなんだ。意外。 「獣人国では未だに人と獣人の結婚は禁止されてて、ミレニアさんの両親は政略結婚だから、ミレニアさん、向こうの国では結構肩身の狭い思いしてたんじゃないかな。姿が人か獣人かどっちかに寄ってれば、まだそういう差別も少ないんだろうけど、ミレニアさんの尻尾、隠しようもないくらい立派だしね」  うん、それは激しく同意。もふりたいくらいに立派な尻尾だと俺も思う。 「でも、だったらミレニアさんの結婚って……」 「まぁ、両親同様政略結婚だよね」  あぁ……なんか可哀想だな。ミレニアさんは旦那様が好きで、なのに親に勝手に決められた婚約者がいて、近い将来結婚しなければならないんだ。そんな風に耐えて生きてるのに、ぽっと出の俺なんかが旦那様と仲良くしてたら、そりゃ怒れるわ。納得。旦那様、ミレニアさんの事もどうにかしてあげればいいのに、それは出来ないのかな? この世界の事をまだよく分かっていない俺は釈然としなくて、むうと眉を寄せた。

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